⚡ 電磁力¶
電流が磁界から受ける力(モーター原理)と、磁界の変化で起電力が生まれる現象(発電機原理)の2本柱。フレミングの手の使い分けが最重要。
🧠 原理(なぜ起きるか)¶
- 左手 = モーター(電動機):電流(指)が磁界(手のひら)の中に入ると、力(親指)が生まれる。電気エネルギー → 運動エネルギー。
- 右手 = 発電機:導体(指)を磁界(手のひら)の中で動かすと、起電力(親指方向)が生まれる。運動エネルギー → 電気エネルギー。
- レンツの法則は「変化を嫌う自然の反抗」。磁束が増えれば打ち消そうとする誘導電流が流れる。
5秒で思い出す
左手=力(モーター)、右手=起電力(発電機)。 中指=電流 \(I\)、人差し指=磁界 \(B\)、親指=力/速度 \(F/v\) の方向。
📐 公式(どう計算するか)¶
レイヤーA:基本概念¶
| 公式 | 意味(日本語) | 使える条件 | 使えない条件 |
|---|---|---|---|
| \(F = BIL\sin\theta\) | 電流 \(I\) を持つ長さ \(L\) の導体が磁束密度 \(B\) の磁界から受ける力 | 直線導体・均一磁界 | \(\theta=0\)(BとIが平行)のとき \(F=0\) |
| \(e = BLv\sin\theta\) | 速度 \(v\) で動く長さ \(L\) の導体に生じる誘導起電力 | 直線導体・均一磁界 | \(\theta=0\)(BとvとLが同一面内で平行)のとき \(e=0\) |
| \(e = -N\dfrac{d\phi}{dt}\) | ファラデーの法則。コイル \(N\) 巻きで磁束が変化するときの誘導起電力 | 常に成立 | — |
レイヤーB:応用変換¶
| 公式/手法 | 意味 | 使える条件 | 使えない条件 |
|---|---|---|---|
| \(H \cdot l = NI\) | アンペアの周回路則。閉じた磁路に沿った \(H\) の積分 = 起磁力 | 対称性のある磁路 | 複雑な3次元形状 |
| \(H = \dfrac{I}{2\pi r}\) | 長直線電流による磁界(ビオ・サバール積分結果) | 無限長の直線電流・距離 \(r\) | 有限長の電線 |
| \(F = \dfrac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi d} \cdot l\) | 平行導体間に働く力(長さ \(l\)、間隔 \(d\)) | 無限長の平行導体 | — |
| \(H = \dfrac{NI}{l}\) | 環状ソレノイド(トロイダルコイル)内部の磁界 | 磁路長 \(l\)、\(N\) 巻き | 鉄心内磁束を求めるときは \(B = \mu H\) を追加 |
| \(H = \dfrac{I}{2r}\) | 半径 \(r\) の円形コイル中心の磁界(1ターン) | 円形コイル・中心点のみ | 中心以外の点 |
| レンツの法則 | 誘導電流は磁束の変化を打ち消す向きに流れる | 常に成立 | — |
平行導体間の力:向きと大きさの求め方
2本の平行導体に電流 \(I_1\)、\(I_2\) が流れるとき、単位長さ当たりに働く力:
(\(\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}\) H/m、\(d\) は導体間距離)
方向の判定(フレミング左手は不要、以下の法則で直接判定):
| 電流の向き | 力の向き |
|---|---|
| 同じ向き(同方向) | 引き合う(吸引力) |
| 逆向き(反対方向) | 反発する(反発力) |
直感: 同方向の電流が作る磁界は2導体の間で打ち消し合い、外側で強め合う → 外から押し合わせる力が働く。
3本の平行導体(R04下問4 タイプ): 各導体が受ける力は他の2本から受ける力のベクトル和。まず各ペアの力の大きさと方向を求め、合成する。
合成磁界がゼロになる条件(R06上問4 タイプ)
2本の平行導体電流が作る磁界の合成がゼロになる点を求める問題。
手順:
- 各導体から距離 \(r\) の点での磁界強度:\(H = \dfrac{I}{2\pi r}\)
- 2つの磁界の方向(右ねじの法則で判定)を確認
- 方向が逆になる領域(外側 or 内側)で大きさが等しくなる点を求める
同方向電流のとき: 2導体の間に合成ゼロ点が存在する(間では2つの磁界が逆向きになるため)。
電流の大きい側から遠い点(\(I_2 > I_1\) なら \(I_1\) に近い側)に合成ゼロ点がくる。
逆方向電流のとき: 2導体の間では磁界が同方向に重なり合うため合成ゼロにならない。合成ゼロは2導体の外側(電流の小さい方の外側)に存在する。
環状ソレノイドとトロイダルコイル(R01問4 タイプ)
環状の鉄心に \(N\) 巻きのコイルを巻き、電流 \(I\) を流したときの内部磁界:
円環状なら \(l = 2\pi r\)(\(r\) は平均半径)なので:
磁束密度:\(B = \mu_0 \mu_r H\)
磁束:\(\phi = B \cdot S\)(\(S\) は断面積)
アンペアの周回路則との接続: \(H \cdot l = NI\) を \(l\) で割ったものがこの式。環状なので磁路全体が対称 → 積分が掛け算に変わる。
トロイダルコイルの外側の磁界はゼロ
環状コイルの内部(磁路内)だけに磁界が閉じ込められる。外側には磁界が漏れない(理想的な場合)。ソレノイドとの大きな違い。
円形コイル中心の磁界(H30問4・H19問1 タイプ)
半径 \(r\) の円形コイル(\(N\) ターン)に電流 \(I\) を流したとき、コイルの中心での磁界強度:
方向: コイルを右ねじが進む方向(電流の向きに対して右ねじを回したとき進む方向)。
| 形状 | 中心の磁界 \(H\) |
|---|---|
| 無限長直線(距離 \(r\)) | \(H = \dfrac{I}{2\pi r}\) |
| 半径 \(r\) の円形コイル(\(N\) ターン・中心) | \(H = \dfrac{NI}{2r}\) |
| 環状ソレノイド(磁路長 \(l\)、\(N\) ターン) | \(H = \dfrac{NI}{l}\) |
比較のポイント: 円形コイルの \(2r\) と直線電流の \(2\pi r\) の違いに注意。円形は \(\pi\) がない分、同じ半径なら直線より磁界が \(\pi\) 倍強い(コイル形状で磁界が集中するため)。
📊 比較表¶
1. フレミング左手(電動機)vs 右手(発電機)¶
| 項目 | 左手(電動機) | 右手(発電機) |
|---|---|---|
| 目的 | 電気 → 力(運動) | 力(運動) → 電気 |
| 親指の向き | 力 \(F\)(動く方向) | 速度 \(v\)(動く方向) |
| 人差し指 | 磁界 \(B\) | 磁界 \(B\) |
| 中指 | 電流 \(I\)(与えた電流) | 起電力 \(e\)(生じる電流) |
2. 電界 \(E\) vs 磁界 \(H\)¶
| 項目 | 電界 \(E\) | 磁界 \(H\) |
|---|---|---|
| 発生源 | 電荷(クーロン) | 電流(アンペア) |
| 単位 | V/m | A/m |
| 力のかかる対象 | 電荷 \(q\) | 電流 \(I\) を持つ導体 |
| 方向のルール | 正電荷から出る方向 | 右ねじの法則(電流に対して) |
3. 自己誘導 vs 相互誘導(インダクタンスへの接続)¶
| 項目 | 自己誘導 | 相互誘導 |
|---|---|---|
| 起電力の発生元 | 自コイルの電流変化 | 隣接コイルの電流変化 |
| 係数 | 自己インダクタンス \(L\) | 相互インダクタンス \(M\) |
| 式 | \(e = -L\dfrac{dI}{dt}\) | \(e = -M\dfrac{dI}{dt}\) |
| 用途 | チョーク・フィルタ | 変圧器 |
🕳️ よくある勘違いTOP3¶
❌ 1:フレミング左手と右手を混同しがち
✅ 「何が欲しいか」で手を選ぶ。力(F)が欲しい → 左手(モーター)、起電力(e)が欲しい → 右手(発電機)。 試験中に迷ったら「電動機か発電機か」を先に確認する。
❌ 2:誘導起電力 \(e = BLv\sin\theta\) の \(\theta\) を間違えがち
✅ \(\theta\) は \(B\)(磁界)と \(v\)(速度)のなす角。\(B \perp v\) のとき(\(\theta = 90°\))が最大で、\(B \parallel v\) のとき(\(\theta = 0°\))はゼロ。 磁界に沿って動いても起電力は生まれない。
❌ 3:レンツの法則で「誘導電流の向き = 磁束の向きと逆」と誤解しがち
✅ 正確には「誘導電流は 磁束の変化 を打ち消す向き」。磁束が増加しているなら、打ち消すために元の磁束と逆向きの磁界を作る電流が流れる。磁束が減少しているなら、同じ向きの電流が流れる。変化を見ること。
❌ 4:平行導体の吸引・反発で「逆電流が引き合う」と思いがち
✅ 実際は==同方向電流 → 吸引、逆方向電流 → 反発==。「反対のものが引き合う」という日常感覚とは逆。 物理的理由:同方向電流は導体間の磁界を打ち消し合い、外から圧縮する力が働くため引き合う。
❌ 5:\(F = BIL\) の \(L\) を「コイルの全長」と間違えがち
✅ \(L\) は磁界中に置かれた有効長(磁界と垂直な方向の長さ)。コイルの場合は磁界に有効に作用するのは「往路と復路の各辺の長さ」であり、接続部のリードは含まない。矩形コイルなら各辺を個別に考える。
❌ 6:誘導起電力 \(e = BLv\) と電磁力 \(F = BIL\) の混同
✅ 両式は別の現象。\(e = BLv\)(右手・発電)は運動から電気を生む式、\(F = BIL\)(左手・モーター)は電流から力を生む式。 「導体棒を動かす → 起電力が生まれ → 回路に電流が流れる → その電流が力を受ける」という連鎖では両方が登場する(H22問3 タイプ)。
🧩 正答者 vs 誤答者¶
| 観点 | ❌ 誤答者 | ✅ 正答者 |
|---|---|---|
| フレミングの手の選択 | いつも左手で考える | 力を求めるとき左手、起電力を求めるとき右手 |
| 誘導起電力の向き | 磁束の向きと同じ向きに起電力が発生する | レンツの法則:変化を打ち消す向きに起電力が発生 |
| sinθの角度 | 「磁界と電流のなす角」を適当に決める | B・I・v の各ベクトル間の角度を正確に特定する |
| ファラデーの法則の符号 | マイナス符号を省略する | e = -N(dφ/dt) のマイナス符号はレンツの法則を表す |
| 磁界と磁束密度の違い | HとBを同じものとして扱う | H [A/m] は磁界の強さ、B = μH [T] は磁束密度 |
| 平行導体間の力の向き | 逆方向電流が引き合うと思う | 同方向→吸引、逆方向→反発(直感と逆!) |
| 円形コイル中心の磁界 | \(H = I/(2\pi r)\) を使う(直線と混同) | 円形コイル中心は \(H = NI/(2r)\)(\(\pi\) が分母にない) |
| 環状ソレノイドの磁界 | 磁路長を外周で計算する | 磁路長は平均周長 \(l = 2\pi r_\text{avg}\) を使う |
📝 出題実績¶
出典: 電験王3(denken-ou.com)H18〜R07上期の過去問一覧より収集(2026-03-30) ※ 電磁気(磁気)の中から電磁力・電磁誘導・平行導体の力に関する問題を抽出。磁気回路は jiki-kairo.md、インダクタンスは inductance.md を参照。
| 年度 | 問 | 形式 | 何が問われたか |
|---|---|---|---|
| R06下 | 問3 | 計算 | コイルの鎖交磁束が変化したときに発生する起電力 |
| R06下 | 問4 | 論説 | 電流を流した平行導体間に加わる力の方向 |
| R06上 | 問4 | 計算 | 平行導体間の合成磁界が零となる条件 |
| R05下 | 問4 | 計算 | 直線状導体に流れる電流によりループ状導体に働く力 |
| R04下 | 問4 | 計算 | 同一方向に電流を流した3本の平行直線導体に加わる力 |
| R04上 | 問4 | 計算 | 一様磁界中を動く直線導体に生じる誘導起電力 |
| R03 | 問4 | 計算 | コイルと磁石を用いた電磁誘導 |
| R02 | 問3 | 計算 | 磁界が電流ループに及ぼす電磁力 |
| R01 | 問4 | 計算 | 環状ソレノイド内の磁界 |
| H30 | 問4 | 論説 | 円形導体ループ電流による磁界の強さ |
| H27 | 問5 | 計算 | 誘導起電力 |
| H26 | 問4 | 計算 | アンペアの周回積分の法則 |
| H25 | 問4 | 計算 | ループ状導体に働く力 |
| H24 | 問4 | 計算 | 平行直線状導体にかかる力の大きさ |
| H23 | 問3 | 計算 | 磁界中に置かれた導体に働く電磁力 |
| H22 | 問3 | 計算 | 一様磁界中で導体棒を動かした場合の誘導電流の導出 |
| H22 | 問4 | 論説 | 共に電流を流した平行導体間に加わる力の方向 |
| H21 | 問3 | 計算 | コイルの磁束鎖交数とコイルに蓄えられる磁気エネルギー |
| H19 | 問1 | 計算 | 直線状導体と円形コイルが作る磁界の比較 |
| H18 | 問4 | 計算 | コイルの自己インダクタンスの導出 |
→ 出題頻度: ★★★★(毎年度1〜2問、問3・問4から出題)
確認問題
問題: 磁束密度B=0.5T中で、有効長L=0.2mの導体に電流I=10Aが流れている。BとIが直角のとき、電磁力Fを求めよ。
解答
答え: F = BIL = 0.5×10×0.2 = 1N ポイント: F=BILsinθ。BとIが直交(θ=90°)ならsinθ=1で最大の力
Level 2: 数学的背景 🔬
マクスウェル方程式との接続
ファラデーの法則 \( e = -N\frac{d\phi}{dt} \) は微分形では: [ \nabla \times \vec{E} = -\frac{\partial \vec{B}}{\partial t} ] アンペアの法則 \( H \cdot l = NI \) は微分形では: [ \nabla \times \vec{H} = \vec{J} + \frac{\partial \vec{D}}{\partial t} ]
電験3種では積分形(周回積分)のみ使うが、これらはマクスウェル方程式の応用。電磁力・電磁誘導は全て電磁場の統一理論から導かれる。
Level 3: 実務との接点 🏭
三相誘導電動機の動作原理は回転磁界(三相電流が作る回転する磁界)と導体に誘導される電流の相互作用による電磁力。工場の主力機器(ポンプ・コンプレッサー・ファン)のほぼ全てがこの原理で動いている。
最終確認: 2026-04-01 | ステータス: v0.7(構造・公式・数値検証済み) | バージョニング基準