🌀 インダクタンス¶
📍 学習マップ上の現在地
前提 → 磁気回路 → [インダクタンス](現在地) → 次 → 三相交流
| 重要度 | 頻出論点 | バージョン |
|---|---|---|
| S | 自己・相互インダクタンス / 結合係数 / エネルギー | v0.7 ✅ |
コイルは「電流の変化を嫌がる素子」。磁界にエネルギーを蓄え、電流変化に逆らう起電力を発生させる。
🧠 原理(なぜ起きるか)¶
- フライホイール(はずみ車)は回転の変化に抵抗する。インダクタも同じで、電流が急に増えようとすると逆起電力で抵抗し、電流が急に減ろうとすると維持しようとする。「電流の慣性」がインダクタンスの本質。
- エネルギーの蓄え方が違う:コンデンサは==電界に蓄える==(電荷 → 電圧)、インダクタは==磁界に蓄える==(電流 → 磁束)。対になる概念として一緒に整理する。
5秒で思い出す
インダクタ = フライホイール。「急に変えようとするな」と抵抗する。エネルギーは磁界の中に。
📐 公式(どう計算するか)¶
レイヤーA:基本概念¶
| 公式 | 意味(日本語) | 使える条件 | 使えない条件 |
|---|---|---|---|
| $\(e = -L\dfrac{dI}{dt}\)$ | 電流が変化するとコイルは逆起電力を生じる | 線形コイル、均一磁界 | 鉄心が磁気飽和している場合 |
| $\(L = \dfrac{N\phi}{I} = \dfrac{\mu N^2 A}{l} \text{ [H]}\)$ | コイルの構造(巻数・断面積・長さ・透磁率)でLが決まる | 均一磁界の場合 | 漏れ磁束が大きい場合は近似 |
| $\(W = \dfrac{1}{2}LI^2 \text{ [J]}\)$ | コイルに蓄えられるエネルギーは電流の2乗に比例 | 電流が定常状態 | 過渡状態では瞬時値が変化 |
環状鉄心コイルのL計算手順(R07上問3・H20問4・H18問4 出題)
環状鉄心コイルの自己インダクタンス計算は出題頻度が高い。公式の各記号の意味を理解して代入できるようにしておく。
| 記号 | 意味 | 単位 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| \(\mu_0\) | 真空の透磁率 | \(4\pi \times 10^{-7}\) H/m | 定数として与えられることが多い |
| \(\mu_r\) | 比透磁率(鉄心の材料で決まる) | 無次元 | 問題文で「比透磁率=○○」として与えられる |
| \(N\) | 巻数 | 回(無次元) | Lは\(N^2\)に比例。巻数を2倍にするとLは4倍 |
| \(A\) | 鉄心の断面積 | m² | cm²で与えられたら \(\times 10^{-4}\) に変換 |
| \(l\) | 磁路の長さ(環状鉄心の中心線の周長) | m | cm で与えられたら \(\times 10^{-2}\) に変換 |
「巻数とLの関係」が問われる典型問題
巻数を \(N_1\) から \(N_2\) に変えたときのインダクタンス比:
例:巻数を2倍にした → \(L\) は4倍になる。巻数を半分にした → \(L\) は \(\frac{1}{4}\) になる。
レイヤーB:応用変換¶
| 公式/手法 | 意味 | 使える条件 | 使えない条件 |
|---|---|---|---|
| $\(e_2 = -M\dfrac{dI_1}{dt}\)$ | コイル1の電流変化がコイル2に起電力を誘導(相互誘導) | 2コイルが磁気的に結合している場合 | 磁気遮蔽されている場合 |
| $\(k = \dfrac{M}{\sqrt{L_1 L_2}} \quad (0 \leq k \leq 1)\)$ | 結合係数:どれだけ磁束が共有されているか | 常に定義可能 | k=1は理想変圧器(漏れ磁束ゼロ)の理想値 |
| $\(L = L_1 + L_2 + 2M \quad \text{(和動)}\)$ | 磁束が同方向に強め合う直列接続 | 直列かつ磁束が同方向 | 磁束が逆方向(差動)では符号反転 |
| $\(L = L_1 + L_2 - 2M \quad \text{(差動)}\)$ | 磁束が逆方向に弱め合う直列接続 | 直列かつ磁束が逆方向 | 和動接続では符号反転 |
和動・差動の見分け方と計算手順(H29問3・R04上問3 出題)
合成インダクタンスの計算は「和動か差動か」の判別が最大の落とし穴。
回路図から判別する手順
- 各コイルの同名端子(•印または ◇ 印)を確認する
- 2つのコイルを直列に接続したとき、電流の流れる向きと同名端子の位置を見る
- 「電流が同名端子側から入る・入る」または「同名端子側から出る・出る」→ 和動(+2M)
- 「一方は同名端子から入り、他方は同名端子から出る」→ 差動(−2M)
Mの値から最大合成インダクタンスを逆算する
和動と差動のL測定値から M を求めることができる:
これを利用して「和動接続と差動接続のL測定値が与えられ、M または \(k\) を求めよ」という問題が出る。
Mが求まったら k を計算:
引っかかりやすいポイント:「直列接続だから単純に \(L_1 + L_2\)」と計算すると誤り。相互結合がある場合は必ず \(\pm 2M\) を加減する。
📊 比較表¶
コンデンサ vs インダクタ(双対関係)¶
| 項目 | コンデンサ(C) | インダクタ(L) |
|---|---|---|
| 蓄えるエネルギー | 電界 | 磁界 |
| エネルギー式 | $\(W = \dfrac{1}{2}CV^2\)$ | $\(W = \dfrac{1}{2}LI^2\)$ |
| 急変を嫌うもの | 電圧(V) | 電流(I) |
| 直流定常状態 | 開放(電流ゼロ) | 短絡(電圧ゼロ) |
| インピーダンス | $\(Z = \dfrac{1}{j\omega C}\)$ | $\(Z = j\omega L\)$ |
自己インダクタンス vs 相互インダクタンス¶
| 項目 | 自己インダクタンス(L) | 相互インダクタンス(M) |
|---|---|---|
| 対象 | 1つのコイル | 2つのコイルの組み合わせ |
| 物理的意味 | 自分自身の電流変化に対する逆起電力 | 相手コイルの電流変化に対する誘導起電力 |
| 単位 | H(ヘンリー) | H(ヘンリー) |
| 符号 | 常に正 | 接続方向で正負が変わる |
和動接続 vs 差動接続¶
| 項目 | 和動接続(+2M) | 差動接続(-2M) |
|---|---|---|
| 磁束の向き | 同方向(強め合う) | 逆方向(弱め合う) |
| 合成インダクタンス | $\(L_1 + L_2 + 2M\)$(大きくなる) | $\(L_1 + L_2 - 2M\)$(小さくなる) |
| 巻き方の判断 | 同名端子を直列 | 異名端子を直列 |
コンデンサとインダクタの直列・並列公式の違い(双対関係)
コンデンサとインダクタは「双対」の関係にある。公式の形が入れ替わるので混同に注意。
| 接続 | コンデンサ C | インダクタ L(相互結合なし) |
|---|---|---|
| 直列 | \(\dfrac{1}{C} = \dfrac{1}{C_1} + \dfrac{1}{C_2}\)(合成容量が小さくなる) | \(L = L_1 + L_2\)(合成Lが大きくなる) |
| 並列 | \(C = C_1 + C_2\)(合成容量が大きくなる) | \(\dfrac{1}{L} = \dfrac{1}{L_1} + \dfrac{1}{L_2}\)(合成Lが小さくなる) |
覚え方:コンデンサの直列とインダクタの並列が「同じ形の式」、コンデンサの並列とインダクタの直列が「同じ形の式」になる(完全に入れ替わっている)。
🕳️ よくある勘違いTOP3¶
❌ こう思いがち①: 自己誘導起電力のマイナス符号は計算上の話で、物理的意味はない ✅ 実際は: マイナスはレンツの法則そのもの。「変化を妨げる向き」に起電力が生じることを示す。符号を落とすと向きが逆になり、エネルギーの授受が逆転する。
❌ こう思いがち②: 相互インダクタンスMは常に正の値 ✅ 実際は: Mの絶対値は常に正だが、合成インダクタンスを求める際は接続方向(和動か差動か)によって +2M か −2M になる。巻き方(同名端子の位置)で決まる。
❌ こう思いがち③: 結合係数k=1のコイルは現実に存在する ✅ 実際は: k=1は「漏れ磁束がゼロ」の理想変圧器の条件。現実のコイルは必ず漏れ磁束があるので k<1。k≈1 に近いのは鉄心トランスで、空芯コイルはkがかなり小さい。
❌ こう思いがち④: 相互結合コイル回路の電圧計算では、自己インダクタンス分の電圧だけ考えればよい ✅ 実際は: 相互結合がある場合、コイルの端子電圧は自己誘導(\(L \frac{dI}{dt}\))と相互誘導(\(M \frac{dI'}{dt}\))の両方を加減する必要がある。和動か差動かで符号が変わるため、向きの確認が必須。
🧩 正答者 vs 誤答者¶
| 観点 | ❌ 誤答者 | ✅ 正答者 |
|---|---|---|
| 自己誘導の符号 | e = L(dI/dt) とマイナスを忘れる | e = -L(dI/dt)(逆起電力はレンツの法則でマイナス) |
| 和動・差動の判別 | 接続図を見ずに「直列なら和」と思い込む | 磁束が強め合う向き(和動)か打ち消し合う向き(差動)かで符号が変わる |
| 結合係数kの範囲 | k > 1 になることがあると思い込む | 0 ≤ k ≤ 1(k=1は理想的な完全結合、現実はk<1) |
| エネルギーの公式 | W = LI(Iの2乗を忘れる) | W = LI²/2(運動エネルギーのmv²/2と対比して覚える) |
| インダクタの電流 | スイッチ切替時に電流が急変すると考える | インダクタの電流は急変できない(過渡現象の初期条件) |
相互結合コイル回路の電圧最大値の求め方(R05上問10 出題)
「コイルを接続した回路に現れる電圧の最大値を求めよ」という計算問題の解法。
問題パターン: 2つのコイル \(L_1\)、\(L_2\)(相互インダクタンス \(M\))が和動または差動で直列接続された回路に交流電流 \(i = I_m \sin\omega t\) が流れるとき、回路の端子電圧の最大値を求める。
解法手順
- 合成インダクタンスを計算する
- 和動:\(L = L_1 + L_2 + 2M\)
- 差動:\(L = L_1 + L_2 - 2M\)
- 誘導リアクタンスを計算する:\(X_L = \omega L\)
- 電流最大値 \(I_m\) と \(X_L\) を掛けて電圧最大値を求める:\(V_m = X_L \cdot I_m = \omega L \cdot I_m\)
なぜ \(V_m = \omega L \cdot I_m\) になるか
交流電流 \(i = I_m \sin\omega t\) をコイルに流すと、電圧は:
最大値は \(\cos\omega t = 1\) のとき → \(V_m = \omega L I_m\)
引っかかりやすいポイント:問題に \(M\) が与えられると「どう使うのか?」で迷いがちだが、まず合成インダクタンスを作って、あとは単一コイルと同じ手順で計算する。
📝 出題実績¶
出典: 電験王3(denken-ou.com)H18〜R07上期の過去問一覧より収集(2026-03-30) ※ 電磁気(磁気)の中から自己インダクタンス・相互インダクタンス・合成インダクタンスに関する問題を抽出。
| 年度 | 問 | 形式 | 何が問われたか |
|---|---|---|---|
| R07上 | 問3 | 計算 | 環状鉄心に巻くコイルの自己インダクタンスと巻数の関係 |
| R07上 | 問4 | 計算 | 直線状導体と円形コイルが作る磁界の比較 |
| R06上 | 問3 | 計算 | 磁気に関する量とその単位記号の組合せ |
| R05上 | 問10 | 計算 | コイルを接続した回路に現れる電圧の最大値 |
| R04上 | 問3 | 計算 | コイルの自己インダクタンスと相互インダクタンスの関係 |
| H30 | 問14 | 論説 | SI組立単位と基本単位に関する論説 |
| H29 | 問3 | 計算 | 合成インダクタンス |
| H28 | 問3 | 計算 | ビオ・サバールの法則 |
| H24 | 問3 | 穴埋 | コイルのインダクタンス |
| H23 | 問4 | 計算 | 正方形のコイルと円形コイルの比較 |
| H21 | 問4 | 計算 | 扇形導線が作る磁界の大きさ |
| H20 | 問4 | 計算 | 環状鉄心に巻くコイルの自己インダクタンスと巻数の関係 |
| H18 | 問4 | 計算 | コイルの自己インダクタンスの導出 |
→ 出題頻度: ★★★(毎年度1問、問3・問4から出題。磁気回路と兼ねて出題される傾向)
確認問題
問題: L=50mHのコイルに5Aの電流が流れているとき、蓄えられているエネルギーを求めよ。
解答
答え: W = LI²/2 = 0.05×25/2 = 0.625J ポイント: W = LI²/2(運動エネルギー mv²/2 との対応で覚える)
Level 2: 数学的背景 🔬
結合インダクタの等価回路
相互インダクタンスMを持つ2コイルの等価回路: - T型等価回路(Y等価):L1-M、L2-M、Mの3インダクタ - 理想変圧器の条件:k=1(完全結合)のとき
変圧器の動作原理:1次コイルの磁束変化が2次コイルに相互誘導起電力を発生させる。巻数比 \( N_1/N_2 \) が電圧変換比、\( N_2/N_1 \) が電流変換比に対応。
Level 3: 実務との接点 🏭
変電所・工場の変圧器はインダクタンスの相互結合で電圧変換する。リアクトル(インダクタ)は系統の短絡電流制限や高調波フィルタに使う。現場では「インピーダンス %(%Z)」という形でインダクタンスを管理する。
最終確認: 2026-04-01 | ステータス: v0.7(構造・公式・数値検証済み) | バージョニング基準