コンテンツにスキップ

🔌 トランジスタ・FET

📍 学習マップ上の現在地

前提半導体 → [トランジスタ・FET](現在地) → オペアンプ

重要度 頻出論点 バージョン
A 電流増幅率 / バイアス回路 / FET v0.7 ✅

トランジスタは「小さい信号で大きな電流を制御するスイッチ兼増幅器」。蛇口のバルブのように、わずかな力(ベース電流)で大きな流れ(コレクタ電流)を制御する。

🧠 原理(なぜ起きるか)

  • バイポーラトランジスタ(BJT)は「電流で電流を制御」する。ベース電流 \(I_B\) が小さくても、\(h_{FE}\) 倍に増幅されたコレクタ電流 \(I_C\) が流れる。蛇口のバルブ(少ない力で大流量を制御)そのもの。
  • FETは「電圧で電流を制御」する。ゲートに電圧を加えるだけで電流路(チャネル)を制御できるため、入力電流がほぼゼロ。BJTとFETは制御方式が根本的に異なる。

5秒で思い出す

BJT = 電流で制御(ベース電流が蛇口ハンドル)。FET = 電圧で制御(ゲート電圧が磁石)。

📐 公式(どう計算するか)

レイヤーA:基本概念

公式 意味(日本語) 使える条件 使えない条件
$\(h_{FE} = \dfrac{I_C}{I_B}\)$ 電流増幅率:ベース電流の何倍のコレクタ電流が流れるか アクティブ領域(増幅動作) 飽和領域・遮断領域では成立しない
$\(I_E = I_B + I_C\)$ キルヒホッフの電流則:3端子の電流収支 常に成立(BJT全動作領域)
$\(P_C = V_{CE} \times I_C \text{ [W]}\)$ コレクタ損失:トランジスタの発熱量。最大定格以内に保つ必要がある 定常動作時 スイッチング過渡時は瞬時値で評価

レイヤーB:応用変換

公式/手法 意味 使える条件 使えない条件
$\(A_v \approx -h_{FE} \cdot \dfrac{R_C}{h_{ie}}\)$ エミッタ接地増幅回路の電圧利得(概念) 小信号等価回路での近似 大信号動作・非線形領域では不適
バイアス設計(動作点設定) 直流動作点(Q点)をアクティブ領域の中心に設定し、信号を歪みなく増幅させる 増幅回路設計 スイッチング用途では飽和・遮断の2点動作
FET特性:\(I_D\) vs \(V_{GS}\) ゲート・ソース間電圧 \(V_{GS}\) でドレイン電流 \(I_D\) を制御。入力電流≈ゼロ MOSFETの基本動作 BJTと混同した回路解析は誤り

📊 比較表

バイポーラトランジスタ(BJT)vs FET

項目 BJT(バイポーラ) FET(電界効果型)
制御方式 電流制御(ベース電流) 電圧制御(ゲート電圧)
入力インピーダンス 低い(\(h_{ie}\) 数百Ω〜数kΩ) 非常に高い(MOSFETは≈∞)
キャリア 電子+正孔(両方使う = バイポーラ) 電子または正孔(片方のみ = ユニポーラ)
主な用途 高速スイッチング・線形増幅 低消費電力・VLSI・高インピーダンス入力
代表例 2SC1815など MOSFET(CMOS、パワーMOS)

NPN型 vs PNP型

項目 NPN型 PNP型
構造 N-P-N のサンドイッチ P-N-P のサンドイッチ
動作電流の向き コレクタ→エミッタ方向(電子の流れは逆) エミッタ→コレクタ方向
バイアスの極性 \(V_{CE} > 0\)\(V_{BE} \approx +0.6\) V \(V_{EC} > 0\)\(V_{EB} \approx +0.6\) V
電源の使い方 \(+V_{CC}\) から負荷を通してコレクタへ エミッタが高電位側
回路図の記号 エミッタの矢印が外向き(NPN → 電流が出る) エミッタの矢印が内向き(PNP → 電流が入る)

エミッタ接地 vs ベース接地 vs コレクタ接地

項目 エミッタ接地 ベース接地 コレクタ接地(エミッタフォロワ)
入力端子 ベース エミッタ ベース
出力端子 コレクタ コレクタ エミッタ
電圧利得 大(反転) 大(非反転) ≈1(非反転)
電流利得 大(\(h_{FE}\)倍) ≈1
入力インピーダンス 中程度 低い 高い
主な用途 汎用増幅 高周波増幅 インピーダンス変換

コレクタ接地(エミッタフォロワ)の計算:R07上問18・H30問16で出題

エミッタフォロワは「電圧利得がほぼ1、電流利得が大きい」回路。出力はエミッタから取り出す。

直流動作点の計算手順

  1. \(V_{BE} \approx 0.6\) V(シリコントランジスタ)
  2. ベース電圧 \(V_B\) を求める(分圧バイアスなら \(V_B = V_{CC} \cdot R_2 / (R_1 + R_2)\)
  3. エミッタ電圧 \(V_E = V_B - V_{BE}\)
  4. エミッタ電流 \(I_E = V_E / R_E\)\(\approx I_C\)
  5. コレクタ・エミッタ間電圧 \(V_{CE} = V_{CC} - V_E\)(コレクタ側に抵抗なし)

引っかかりやすいポイント

コレクタ接地ではコレクタ側に負荷抵抗がない\(V_{CE} = V_{CC} - I_E R_E\) の形になる。エミッタ接地と同じ式を使おうとすると間違える。

縦続接続増幅器の電圧利得:R05下問13で出題

複数の増幅段を直列につなぐ(縦続接続)と、全体の電圧利得は各段の利得のになる。

\[A_{v\text{total}} = A_{v1} \times A_{v2} \times \cdots\]

dB表示の場合はになる:

\[A_{v\text{total}}[\text{dB}] = A_{v1}[\text{dB}] + A_{v2}[\text{dB}] + \cdots\]

典型問題パターン:「2段増幅回路で各段の電圧利得が20倍のとき、全体の電圧利得は?」→ \(20 \times 20 = 400\) 倍(または \(26\text{ dB} + 26\text{ dB} = 52\text{ dB}\))。

注意:電流利得・電力利得も同様に積になる。

電流帰還バイアス回路(自己バイアス回路):R04下問18・R04上問18で出題

電流帰還バイアス回路の計算手順

エミッタに抵抗 \(R_E\) を入れて動作点を安定化させる回路。4つの抵抗(\(R_1, R_2, R_C, R_E\))とトランジスタで構成される。

計算手順(試験の標準アプローチ)

  1. ベース電圧を分圧式で求める\(R_1, R_2\) の分圧) $\(V_B = V_{CC} \cdot \frac{R_2}{R_1 + R_2}\)$

  2. エミッタ電圧を求める $\(V_E = V_B - V_{BE} \approx V_B - 0.6 \text{ [V]}\)$

  3. エミッタ電流(≈コレクタ電流)を求める $\(I_C \approx I_E = \frac{V_E}{R_E}\)$

  4. コレクタ電圧・VCEを求める $\(V_C = V_{CC} - I_C R_C\)$ $\(V_{CE} = V_C - V_E = V_{CC} - I_C(R_C + R_E)\)$

前提条件の確認

分圧バイアスの近似式 \(V_B = V_{CC} \cdot R_2/(R_1 + R_2)\) は「\(R_1, R_2\) を流れる電流 \(\gg I_B\)」のときに成立する。問題文に「\(h_{FE}\) が十分大きい」または「\(I_B\) を無視できる」と書かれていれば近似を使ってよい。

「自己バイアス(電流帰還)の安定化効果」\(I_C\) が増加 → \(V_E\) 上昇 → \(V_{BE}\) 減少 → \(I_B\) 減少 → \(I_C\) 減少、という負帰還ループで動作点が安定化する。論説問題でこのメカニズムを問われることがある。

FET増幅回路(ソース接地):R05下問18・R03問13・H24問18・H21問13で出題

FET(接合形FET・MOSFET)増幅回路の計算

FETはBJTと異なり「電圧制御」デバイス。ソース接地が基本構成。

基本パラメータ

パラメータ 記号 意味
相互コンダクタンス \(g_m\) [S] \(V_{GS}\) の変化に対する \(I_D\) の変化率。\(g_m = \Delta I_D / \Delta V_{GS}\)
ドレイン抵抗 \(r_d\) [Ω] ドレイン・ソース間の内部抵抗
ドレイン電流 \(I_D\) [A] ゲート電圧で制御される出力電流

ソース接地の電圧利得(相互コンダクタンス \(g_m\) × ドレイン抵抗 \(R_D\)

\[A_v = -g_m R_D\]

\(r_d \gg R_D\) の場合の近似。\(r_d\) が与えられた場合は \(A_v = -g_m (R_D \| r_d)\)

直流動作点の計算(ソース自己バイアス)

  1. ゲート電流 ≈ 0 → \(V_G \approx 0\) V(ゲートに抵抗 \(R_G\) があっても電圧降下なし)
  2. \(V_{GS} = V_G - V_S = 0 - I_D R_S = -I_D R_S\)
  3. \(I_D\)\(V_{GS}\) の関係式(特性曲線)に代入して \(I_D\) を求める

BJTとの違いに注意

  • FETは \(V_{BE} \approx 0.6\) V のような固定値がない。\(V_{GS}\) は動作点によって変わる。
  • \(I_G \approx 0\) なので、ゲート抵抗 \(R_G\) があっても電圧降下はゼロ(BJTのベース抵抗の感覚で \(V_G = V_{CC} \cdot R_G/(R_G + ...)\) としないこと)。

負帰還増幅回路:R01問13・H18問18で出題

負帰還増幅の特性と計算

出力の一部を入力に戻して(帰還)、増幅率を意図的に下げる代わりに安定性を高める回路。

負帰還をかけたときの電圧利得

帰還なしの開ループ利得を \(A\)、帰還率を \(\beta_f\)(0〜1)とすると:

\[A_f = \frac{A}{1 + A\beta_f}\]

\(A\beta_f \gg 1\)(深い負帰還)のとき:

\[A_f \approx \frac{1}{\beta_f}\]

負帰還の効果(論説問題の頻出論点)

特性 変化
電圧利得 小さくなる(\(1/(1+A\beta_f)\) 倍)
帯域幅(周波数帯域) 広くなる(\(1+A\beta_f\) 倍)
非線形歪み 小さくなる
入力インピーダンス(直列帰還) 大きくなる
出力インピーダンス(電圧帰還) 小さくなる
動作の安定性 向上する

試験の鉄則

「負帰還をかけると利得は下がるが、他の特性は改善される」が基本メッセージ。利得と帯域幅の積(利得帯域幅積)は一定に保たれる。

発振回路の発振条件(バルクハウゼン条件):R04下問13・R03問18・H18問13で出題

発振回路の条件と種類

発振回路は「負帰還増幅の帰還率を正帰還にして、自励振動を起こす」回路。

バルクハウゼン条件(発振が持続する条件)

\[A\beta_f = 1 \quad \text{かつ} \quad \angle(A\beta_f) = 0°(または360°の整数倍)\]

すなわち:「ループ利得の大きさが1、位相シフトが0°(正帰還になっている)」

試験に出る発振回路の種類と特徴

種類 発振周波数 特徴
RC発振回路(位相シフト形) \(f_0 = \dfrac{1}{2\pi\sqrt{6}RC}\) 3段のRCで180°位相シフト
LC発振回路(コルピッツ・ハートレー) \(f_0 = \dfrac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) 高周波向き、安定性が高い
水晶発振回路 水晶の共振周波数 最高精度の周波数安定性

電験3種の出題パターン(R04下問13): 「発振条件を満たすために必要な増幅度はいくらか?」→ 帰還回路の減衰量を計算し、その逆数が最低必要増幅度。RC位相シフト発振では帰還率 \(\beta_f = 1/29\)(3段RC回路)なので、増幅度 \(A \geq 29\) が必要。

「発振条件 = 不安定な条件」ではない

発振回路は設計として正帰還ループを作る。「\(A\beta_f = 1\) を満たす周波数だけ発振する」のがポイント。それ以外の周波数では \(A\beta_f < 1\) になり発振しない。

🕳️ よくある勘違いTOP3

❌ こう思いがち①: \(h_{FE}\)(電流増幅率)が大きいほど、電圧利得も自動的に大きくなる ✅ 実際は: 電圧利得は \(h_{FE}\) だけでなく負荷抵抗 \(R_C\) と内部インピーダンス \(h_{ie}\) の比にも依存する。「\(h_{FE}\) が大きい = 何でも増幅できる」は誤り。電流増幅率と電圧増幅率は別物。


❌ こう思いがち②: \(I_E = I_B + I_C\) を忘れて、3端子で電流計算を誤る ✅ 実際は: エミッタ電流は必ずベースとコレクタの和。\(I_C \gg I_B\) なので近似で \(I_E \approx I_C\) としがちだが、精密計算ではズレが出る。キルヒホッフの電流則は常に成立する。


❌ こう思いがち③: FETもBJTと同じように「入力電流でバイアスを考える」 ✅ 実際は: MOSFETのゲート入力インピーダンスは理想的には無限大(実際は静電容量による影響のみ)。入力電流はほぼゼロなので、BJTのベース電流を考えるような設計は不要。ゲート電圧 \(V_{GS}\) だけに着目する。


❌ こう思いがち④: 負帰還をかけると「利得も安定性も向上する」

✅ 実際は: 負帰還は利得を犠牲にして安定性・帯域幅・歪み低減を得るトレードオフ。「利得が下がった分だけ帯域幅が広がる(利得帯域幅積が一定)」が正しい理解。R01問13・H18問18で問われた視点。


❌ こう思いがち⑤: 発振回路は「増幅回路が壊れて起きる偶発的な現象」

✅ 実際は: 発振回路は正帰還ループを意図的に設計する。バルクハウゼン条件(\(A\beta_f = 1\)、位相0°)を満たす周波数でのみ発振し、それ以外の周波数では発振しない。「増幅度が小さすぎると発振しない(減衰振動)、大きすぎると波形が歪む」という動作点の設計問題。R04下問13・R03問18で問われた。

🔄 解法フローチャート

トランジスタ増幅回路の問題を見たら
① 「直流動作点(バイアス点)を求めよ」
   VBE ≈ 0.6V(シリコン)と仮定
   IB = (VBB - VBE) / RB
   IC = hFE × IB
   VCE = VCC - IC × RC

② 「増幅度 Av を求めよ」
   エミッタ接地: ==Av = -hFE × RC / hie==
   (hieが与えられていない場合は ==VT/IB = 26mV/IB== で近似)

③ 「電流の収支を確認」
   IE = IB + IC(常に成立)

④ 単位・符号の確認
   コレクタ電流 IC は mA 単位が多い

📝 出題実績

出典: 電験王3(denken-ou.com)H18〜R07上期の過去問一覧より収集(2026-03-30) ※ 電子理論(電子回路)の中からトランジスタ増幅回路・FET増幅回路に関する問題を抽出。オペアンプは opamp.md を参照。

年度 形式 何が問われたか
R07上 問13 計算 トランジスタの電流増幅率と出力インピーダンス
R07上 問18 計算 エミッタホロワ回路における回路計算
R06下 問13 計算 トランジスタの静特性を利用した回路演算
R05下 問13 計算 縦続接続した増幅器の電圧利得の導出
R05下 問18 計算 接合形FETを用いた増幅回路の演算
R05上 問13 論説 コレクタ接地増幅回路の特徴
R04下 問13 計算 正弦波を出力している発振回路の発振条件
R04下 問18 計算 電流帰還バイアス回路の電圧値
R04上 問18 計算 トランジスタ増幅器のバイアス回路
R03 問13 計算 電界効果トランジスタの簡易小信号等価回路
R03 問18 計算 トランジスタを用いた発振回路
R02 問18 計算 エミッタ接地トランジスタ増幅回路の動作特性
R01 問13 論説 負帰還増幅回路
H30 問16 計算 エミッタホロワ回路
H29 問13 計算 バイポーラトランジスタ
H28 問13 計算 エミッタ接地トランジスタ増幅回路
H27 問13 論説 バイポーラトランジスタを用いた電力増幅回路
H25 問13 論説 交流小信号増幅回路
H24 問13 計算 ダイオードの特性による電流の変化
H24 問18 計算 FET増幅回路の特性
H23 問13 穴埋 トランジスタを用いた非安定マルチバイブレータ
H23 問18 計算 トランジスタによる小信号増幅回路
H21 問13 計算 ソース接地のFET増幅器の静特性
H21 問18 計算 エミッタ接地のトランジスタ増幅器
H20 問13 論説 トランジスタの接地方式の異なる基本増幅回路
H19 問18 計算 トランジスタを用いた変成器結合電力増幅回路
H18 問13 穴埋 帰還回路を含む増幅回路の発振条件
H18 問18 計算 負帰還増幅回路の等価回路と電圧増幅度

→ 出題頻度: ★★★(毎年度1〜2問、問13・問18から出題)


確認問題

問題: hFE=100のNPNトランジスタにベース電流IB=0.02mAが流れているとき、コレクタ電流ICとエミッタ電流IEを求めよ。

解答

答え: IC = hFE×IB = 100×0.02 = 2mA、IE = IB+IC = 0.02+2 = 2.02mA ポイント: IE = IB+IC(3端子の電流収支)。ICはIBのhFE倍

Level 2: 数学的背景 🔬

hパラメータと小信号等価回路

トランジスタの小信号動作はhパラメータで記述する: [ \begin{pmatrix} v_1 \ i_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} h_{11} & h_{12} \ h_{21} & h_{22} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} i_1 \ v_2 \end{pmatrix} ]

エミッタ接地での主要パラメータ: - \( h_{ie} \)(入力インピーダンス)≈ β × \( V_T / I_C \)\( V_T \)=26mV @ 室温) - \( h_{fe} \)(電流増幅率)≈ \( \beta \) = hFE(直流) - \( h_{oe} \)(出力アドミタンス)≈ 1/ro

電圧増幅度 \( A_v = -h_{fe} R_C / h_{ie} \) はこのモデルから導出される。

Level 3: 実務との接点 🏭

現代の電力変換回路ではMOSFETやIGBTがバイポーラトランジスタを置き換えているが、動作原理の理解にBJTの基礎が必要。インバータ・UPS・スイッチング電源の中核技術。


最終確認: 2026-04-02 | ステータス: v0.8(出題実績ベースの解説補強済み:エミッタフォロワ計算・縦続接続・電流帰還バイアス・FETソース接地・負帰還・発振条件) | バージョニング基準