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電力系統・需給運用


1. 直感的理解

電力系統の本質: 発電した電力を「今この瞬間に」需要と一致させ続ける。電力は在庫を持てない(蓄電池が普及する前の前提)。需給のバランスが崩れると周波数が変動する。

周波数と需給バランスの因果関係(最重要)

電力系統の発電機(同期発電機)は物理的な回転体。需給バランスが崩れると次の物理メカニズムが働く:

需要 > 供給の場合: → 発電機が「余分な負荷をかけられた」状態
→ 回転子の運動エネルギーが奪われる
→ 回転数が低下 → 周波数が低下(東日本なら50Hz以下になる)

供給 > 需要の場合: → 発電機が「空回りする」状態
→ 回転子にエネルギーが蓄積される
→ 回転数が上昇 → 周波数が上昇

周波数は全系統の発電機が同期しているため、一瞬で系統全体に伝わる。だから周波数は「電力系統の健康診断」として機能する。


2. 電力系統の全体像

graph TD
    A["発電所<br/>(火力・原子力・水力等)"] --> B["昇圧変圧器<br/>発電機出力 → 超高圧"]
    B --> C["超高圧送電<br/>500kV / 275kV"]
    C --> D["一次変電所<br/>500kV → 275kV / 154kV"]
    D --> E["高圧送電<br/>154kV / 66kV"]
    E --> F["二次変電所<br/>154kV → 66kV / 33kV"]
    F --> G["配電用変電所<br/>66kV → 6.6kV"]
    G --> H["低圧配電<br/>6.6kV → 100V / 200V"]
    H --> I["需要家<br/>(家庭・工場)"]

電圧区分と用途

区分 電圧レベル 主な用途
超高圧送電 500kV、275kV 長距離・大容量幹線送電
高圧送電 154kV、66kV 地域幹線送電
特別高圧配電 33kV、22kV 大規模工場・地域変電所
高圧配電 6.6kV 一般配電線路
低圧 100V / 200V 家庭・小規模商業

なぜ高電圧で長距離送電するのか(因果理解)

送電線で消費される電力損失は \(P_{loss} = I^2 R\)。同じ電力 \(P = VI\) を送る場合、電圧Vを高くすると電流Iが小さくなる(\(I = P/V\))。電流が小さいと線路抵抗による損失 \(I^2R\) が大幅に減少する。さらに電流が小さければ電線を細くできるため材料コストも削減できる。超高圧(500kV)は高圧配電(6.6kV)の約76倍の電圧なので、同じ電力を送るなら電流は約1/76、線路損失 \(I^2R\) は \((6.6/500)^2 \approx 1/5{,}700\) に圧縮できる計算になる。


3. 需給運用の仕組み

負荷追従制御 LFC(Load Frequency Control)

目的: 系統周波数を定格(50Hz / 60Hz)に維持する

  • 発電機の出力を自動調整(ガバナ:速度調定)
  • 区域内の周波数偏差を検出 → 制御信号を発電機に送る
  • 応答速度: 秒〜分オーダー

経済負荷配分 EDC(Economic Dispatch Control)

  • 複数の発電所を最も経済的な配分で運用する制御
  • 燃料費(限界コスト)が安い発電所から優先的に起動・増出力する
  • 送電ロスも考慮した最適化が行われる

【頻出引っかけ】EDCの優先順位

「経済負荷配分(EDC)は限界コストの高い発電所から優先的に起動する」→ 誤り。
コストが低い(安い)発電所から優先的に起動する。目的は系統全体の燃料費最小化。コストの高い発電所は最後に起動するピーク対応電源。

揚水発電による需給調整

夜間(需要谷): 余剰電力で水を下池から上池へ揚水(電力消費)
昼間(需要ピーク): 上池から下池へ放水して発電(電力供給)

揚水発電の物理的仕組み(因果理解)

揚水発電所はポンプ水車と同期電動機/発電機を兼用する可逆設備。
夜間: 系統から電力を受け、同期電動機がポンプ水車を駆動して下池の水を上池へ汲み上げる(位置エネルギーとして電力を蓄える)。
昼間: 上池の水を放水し、ポンプ水車が水力タービンとして回転、同期発電機が発電する。
揚水効率は約70〜80%(100kWhの電力で揚水し、放水発電で70〜80kWhを取り出せる)。20〜30%はモーター・ポンプ・発電機の損失。効率は低いが、夜間の余剰電力(原子力・石炭は出力調整が困難)を有効活用できる唯一の大規模貯蔵手段として経済的価値が高い。

系統安定度

種類 定義 対策
定態安定度 定常状態で小さな擾乱に対して安定を保てる限界 送電線を並列化・電圧維持
動態安定度 自動制御(AVR・PSS等)を含む動的安定性 自動電圧調整器(AVR)の整定
過渡安定度 短絡・地絡などの大きな擾乱後に同期を保てるか 高速遮断・系統連系強化

系統安定度の物理的意味(因果理解)

同期発電機は電力系統全体で「同じ速度で回転」している。安定度とは「外乱(負荷急変・短絡等)が起きても同期を失わず(脱調せず)元の運転状態に戻れるか」の指標。
定態安定度: 小さな負荷変動に対する復元力。送電電力の上限(定態安定限界)を超えて運用しなければよい。
過渡安定度: 短絡事故のような大きな擾乱では、発電機が加速して他機との位相差が急拡大する。これを素早く遮断(高速遮断)して位相差が大きくなる前に系統を切り離すことで脱調を防ぐ。


4. 電力品質の比較表

電力品質の管理基準(数値は覚える)

指標 管理目標
周波数(東日本) 50Hz ± 0.2Hz
低圧100V系 101V ± 6V(95〜107V)
高圧6.6kV系 6,600V ± 600V(6,000〜7,200V)
高調波電圧歪率 5%以下
電圧不平衡率 3%以下
指標 定義 管理目標 問題発生時の影響
周波数 交流の毎秒サイクル数 50Hz±0.2Hz(東日本) ズレると同期発電機が脱調・機器誤動作
電圧(低圧) 100V系の電圧 101V±6V(95〜107V) 低すぎ→機器故障、高すぎ→絶縁破壊
電圧(高圧) 6.6kV系の電圧 6,600V±600V(6,000〜7,200V) 電動機の効率低下・過熱
高調波 基本波の整数倍の周波数成分 総合高調波電圧歪率 5%以下 機器過熱・通信障害・継電器誤動作
電圧不平衡率 三相各相電圧の不均一度 3%以下 誘導電動機の効率低下・過熱

5. 系統連系の要件

分散型電源(太陽光・風力・小水力等)の系統連系

系統連系規程(JEAG 9701)の主なポイント:

要件 内容
単独運転防止 系統停電時に分散型電源が単独で運転(アイランディング)しないこと
逆潮流 構内から系統側へ向かう有効電力の流れ。余剰電力の売電。大部分の分散型電源で認められている
保護協調 系統の保護システムと連系点の保護装置を協調させること
電圧変動 連系により配電線の電圧が許容範囲を超えないこと
高調波 インバータから発生する高調波が規制値以下であること

【頻出引っかけ】逆潮流は「有効電力」の流れだけを指す

系統連系規程での 逆潮流の定義は「分散型電源設置者の構内から、一般送配電事業者の電力系統側へ向かう"有効電力"の流れ」。

  • 無効電力は逆潮流に含めない。連系点で系統側へ無効電力が流れていても、それは「逆潮流」とは呼ばない。逆潮流の有無は有効電力の向きだけで判定する。
  • 「逆潮流あり」=余剰電力を売電している状態。「逆潮流なし(逆潮流なし連系)」=発電を構内消費だけに使い、有効電力を系統へ流さない運用(RPR=逆電力継電器で監視)。
  • なぜ有効電力だけか:契約・料金(売電量)や系統側の電圧上昇に直接効くのは有効電力の往来であり、無効電力は別枠(力率・電圧調整の管理対象)として扱うため。

単独運転防止(アイランディング防止)

系統停電時のリスク:
  系統 ← [連系点] ← 太陽光発電
             ↑
  需要家に電圧が印加されたまま
  → 作業員の感電リスク
  → 系統復旧時の位相不一致による機器損傷

「解列」とは何を切り離すのか(連系点 vs 母線の区別)

「解列(かいれつ)」=並列運転を解くこと=連系用遮断器を開いて、自分の発電を相手から切り離すこと。どの遮断器を開くかで「何からの解列か」が変わるため、まず構内の構成を押さえる。

   電力系統(系統母線)
        │
   ┌────┴────┐ ← 連系用遮断器(連系点/受電点)
   │  受電点  │   ★ ここを開く=「系統からの解列」
   └────┬────┘     構内まるごと(構内母線+負荷+発電)が系統から切り離される
        │
   ┌────┴──────────────┐ 構内母線(自分の母線)
   │        │          │
  負荷    負荷    ┌─────┴─────┐ ← 発電機(PCS)用遮断器
                 │  分散型電源  │   ☆ ここを開く=「母線からの解列」
                 └───────────┘     発電機だけが構内母線から切り離される(負荷は系統から受電継続)
用語 開く遮断器 切り離される対象 主な目的
系統からの解列 連系用遮断器(連系点・受電点) 構内まるごと(母線+負荷+発電) 系統事故の波及防止、単独運転防止
母線からの解列 発電機(PCS)用遮断器 分散型電源だけ 発電機の保護、構内の負荷は系統から受電継続

単独運転防止で行う「解列」はどっち?

単独運転防止で最終的に行うのは 「系統からの解列」(連系用遮断器の開放)+ 分散型電源そのものの停止(ゲートブロック)。

順番のイメージ:① 単独運転を検出 → ② 連系用遮断器を開いて構内を系統から切り離し(系統解列)→ ③ 発電機も停止させてアイランド(島)を完全に消す。
②だけだと構内母線上で発電機と負荷が「島」を作って運転を続けてしまうため、③の発電停止までセットで「単独運転を解消した」と言える。

検出方法: 系統が切り離された「変化」を捉える。大きく受動的方式(系統が切れた瞬間に現れる急変を検出)と能動的方式(常に小さなゆさぶりを与えておき、その応答で判定)に分かれる。

方式 代表例 検出原理(イメージ)
受動的 電圧位相跳躍検出 系統が切れると負荷の力率分だけ電圧位相が急に飛ぶ → その跳躍を検出
受動的 周波数変化率検出(ROCOF, df/dt) 系統が切れると需給アンバランス分だけ周波数が急変 → 変化の速さを検出
受動的 3次高調波電圧急増検出 系統が切れると変圧器由来の3次高調波電圧が逃げ場を失い急増 → それを検出
能動的 周波数シフト方式 出力周波数を少し押し続ける。系統ありなら系統が抑え込むので変化なし/系統が切れると周波数がずれ続ける
能動的 無効電力変動方式 無効電力を周期的に変動させる。系統ありなら影響なし/系統が切れると周波数が揺れる
能動的 負荷変動方式 瞬間的に負荷を挿入し電圧の変化を見る。系統ありなら変化小/系統が切れると電圧が大きく動く

能動的方式の核心イメージ(ここが分かればOK)

能動的方式は「わざと少しだけ揺さぶり続けて、揺れが返ってこなければ系統が消えたと判断する」方式。

  • 系統につながっているとき:系統は無限大母線(巨大な電源)。こちらが多少ゆさぶっても、系統が周波数も電圧もガッチリ固定するので揺れは打ち消され、何も起きない。
  • 系統が切れたとき(単独運転):固定してくれる相手がいない。こちらの小さなゆさぶりがそのまま増幅され、周波数や電圧がどんどんずれていく → その逸脱を検出して解列。

受動的方式が「切れた瞬間のショック(急変)」を見るのに対し、能動的方式は「切れた後に揺さぶりが暴れ出すか」を見る、と対比すると整理しやすい。能動的方式は検出感度が高いが、複数台連系時に互いの揺さぶりが干渉する課題がある。

対策: 系統停電を検出したら自動的に系統から解列(連系用遮断器を開放)し、分散型電源を停止する。

【頻出引っかけ】系統連系と慣性力

「太陽光発電を大量に系統連系すると系統の慣性力が増す」→ 誤り。
太陽光発電はインバータ(直流→交流変換器)経由で系統に接続されるため、発電機の回転体(同期発電機)の慣性力(イナーシャ)に相当するものがない。太陽光発電比率が上がると系統全体の慣性力が低下し、周波数が変動しやすくなる。これが再エネ大量導入時の系統安定性課題の一つ。

太陽光・風力の大量導入と系統安定性

  • 出力変動: 天候・風速依存で大きく変動する → 従来型発電機による調整力が必要
  • 慣性力の低下: インバータ経由の連系では系統の慣性力(イナーシャ)が低下 → 周波数変動が大きくなりやすい
  • 対策: 蓄電池システム(BESS)・揚水発電との組み合わせ、需要側制御(DR)

6. 公式マップ

設備利用率の公式

\[\text{設備利用率} = \frac{\text{年間発電電力量 [kWh]}}{\text{設備容量 [kW]} \times 8760 \text{ [h]}} \times 100 \quad [\%]\]
  • 設備利用率が高い → 発電設備を有効活用している
  • 太陽光の設備利用率: 約12〜18%(年間を通じて昼間のみ、天候依存)
  • 火力の設備利用率: 約50〜80%(ベース・ミドル運用による)

供給予備率の公式

\[\text{供給予備率} = \frac{\text{供給力} - \text{最大需要電力}}{\text{最大需要電力}} \times 100 \quad [\%]\]
  • 供給予備率が高い → 余裕が大きく安定供給しやすい(ただし経済性は下がる)
  • 一般に供給予備率は 8〜10%以上を目標とすることが多い
  • 予備率が高い = 安定(ただし設備コストが増える)

レイヤーB: 負荷持続曲線の読み方

負荷持続曲線: 年間8760時間を通じて、各負荷レベルが何時間持続するかを表したグラフ

電力需要 (kW)
    ↑
最大 ├──────┐ ← ピーク負荷(年間数十〜数百時間)
    │      │   揚水・ガスタービン等で対応
    ├──────────────┐ ← ミドル負荷
    │              │   LNG・石油火力等で対応
    ├──────────────────────── ← ベース負荷
    │                         原子力・石炭火力・大型水力等
    └───────────────────────────→ 時間 [h]
                              8760h(1年)
  • ベース負荷: 年間ほぼ常時必要な最低限の電力。原子力・石炭火力で賄う
  • ミドル負荷: 昼間・平日に追加的に必要な電力。LNG火力で対応
  • ピーク負荷: 夏の猛暑日・冬の厳寒日など年間数十〜数百時間のみ。揚水・ガスタービンで対応

7. 引っかけパターン

【頻出引っかけ1】周波数低下の原因を逆に理解

「周波数低下は供給が需要を上回っている状態(供給過多)のサイン」→ 誤り。
周波数低下 = 需要が供給を上回っている状態(需要過多)。発電機(回転体)に重い負荷がかかって回転数が落ちるイメージ。

【頻出引っかけ2】揚水の昼夜を逆に覚える

「揚水発電所は電力需要の多い昼間に揚水を行う」→ 誤り。
揚水(水を汲み上げる:電力消費)は夜間(余剰電力を活用)。昼間は放水して発電する(ピーク対応)。昼夜の向きが逆になった出題が頻出。

【頻出引っかけ3】供給予備率の大小と安定性

「供給予備率は小さい方がよい(ムダがない)」→ 誤り(あるいは一面的)。
予備率が高い方が電力の安定供給に有利(安全マージンが大きい)。ただし設備を多く持つほどコストがかかる。試験では「予備率が高い = 安定」という観点で正誤判定する。

【頻出引っかけ4】低圧100V系の適正電圧範囲

「低圧100V系の電圧の適正範囲は100V±10Vである」→ 誤り。
適正範囲は 101V±6V(95〜107V)。±10Vは誤り。101Vという値が基準であることも含めて覚える。


8. 正誤判定の急所

文 判定 解説
系統周波数が低下するのは需要が供給を上回っている状態である 正 発電機の回転数(周波数)が需要増で低下する
揚水発電所は電力需要の多い昼間に揚水を行う 誤 揚水は夜間(余剰電力を利用)。昼間は放水・発電
設備利用率が高いほど発電設備を有効活用している 正 設備利用率 = 実際の発電量 / 最大可能発電量
低圧100V系の電圧の適正範囲は100V±10Vである 誤 適正範囲は 101V±6V(95〜107V)
太陽光発電を大量に系統連系すると系統の慣性力が増す 誤 インバータ連系では慣性力(イナーシャ)は低下する
単独運転防止は系統停電時に分散型電源を自動解列させる技術である 正 アイランディング防止。作業員感電リスクや位相不一致を防ぐ
経済負荷配分(EDC)は限界コストの高い発電所から優先的に起動する 誤 限界コストの低い発電所から優先的に起動する(安い順)
供給予備率が高いほど電力供給の安定性が高い 正 余裕が大きいほど需要変動や設備故障に対応しやすい

📊 出題実績

📚 横断一覧: 年度別一覧

電力系統は「固定の問番号」を持たない横断テーマ

令和時代の問10枠は電力系統ではなく「送配電線路(地中・架空・故障点標定)」が占めている(分野別一覧の問10枠で電験王実題と照合済み)。したがって本テーマ「電力系統・需給運用」は、特定の問番号に固定されず、複数の問にまたがって断片的に問われるのが実態。

唯一の単独出題(令和):

年度 問 出題内容 形式
R04下 問11 電力の需要と供給(電気施設管理) 穴埋

電力系統の論点が実際に現れる場所(例):

論点 出やすい文脈
周波数制御・需給バランス(LFC・EDC) 論説・穴埋の選択肢や、火力の速度調定率(B問題)と絡めて
系統安定度(定態・過渡・動態) 送電線路(架空送電)の過電圧・送電容量の論説内
系統連系・単独運転防止・逆潮流 配電・新エネルギーの分散型電源連系の論説
設備利用率・供給予備率・負荷持続曲線 発電計画・需給運用の穴埋・計算

学習方針: 本テーマは「問○番で必ず出る」ものではないため、暗記より発電・送電・配電・新エネの各テーマに登場する系統関連の因果(周波数と需給、安定度、単独運転防止)を横断的に理解することが得点につながる。

参考: 電験王 電力系統カテゴリ(※問番号は年度により変動)


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