🔥 火力発電¶
燃料の化学エネルギーを熱→蒸気→回転→電気に変換する。熱効率η = 3600/H_r が試験の核心。
🧠 直感的理解¶
火力発電の変換チェーンは3段階:
化学エネルギー(燃料)→ 熱エネルギー(ボイラー)→ 機械エネルギー(タービン)→ 電気エネルギー(発電機)
この各段階で必ずロス(損失)が発生する。熱効率とは「入れた燃料エネルギーのうち何%が電気になったか」の指標。
アナロジー:燃料 = 食料、蒸気 = 体内エネルギー、タービン = 筋肉、発電機 = 仕事。食べたカロリーのうち実際の仕事に使えるのは一部だけ——それが熱効率。
数値感: - 昔の汽力発電:熱効率 35〜40% - 現代のコンバインドサイクル:熱効率 55〜60%以上(世界最高水準) - 電力1 kWhの熱量換算:3,600 kJ(1 kWh = 3,600 kJ は必ず覚える)
🏭 設備を歩く¶
graph LR
A[燃料タンク] -->|燃料供給| B[ボイラー]
subgraph ボイラー本体
B1[節炭器 - Economizer]
B2[蒸発器・ドラム]
B3[過熱器 - Superheater]
B4[再熱器 - Reheater]
B1 --> B2 --> B3
end
B --> B1
B3 -->|過熱蒸気| C[高圧タービン HP-T]
C -->|低温蒸気| B4
B4 -->|再熱蒸気| D[低圧タービン LP-T]
D -->|排気蒸気| E[復水器 - Condenser]
E -->|復水| F[給水ポンプ]
F -->|高圧給水| B1
C --> G[発電機]
D --> G
H[冷却水 海水・河川水] --> E
主要機器テーブル
| 機器名 | 役割 | 試験で問われるポイント |
|---|---|---|
| ボイラー | 燃料を燃焼して水を加熱・蒸気化 | 貫流ボイラー(高圧大容量)vs 自然循環 |
| 節炭器(エコノマイザー) | 排ガスの熱で給水を予熱(省エネ) | 「排ガスで給水予熱」→ 正 |
| 過熱器(スーパーヒーター) | 飽和蒸気をさらに加熱して過熱蒸気に | タービン入口温度を上げて熱効率向上 |
| 再熱器(リヒーター) | 高圧タービン通過後の湿り蒸気を再加熱 | 再熱サイクルの核心部品;湿分除去 |
| 給水加熱器 | 抽気蒸気で給水を予熱(再生サイクル) | 「抽気」「再生」キーワード |
| 高圧タービン(HP) | 高温高圧蒸気で回転力を得る | 再熱後、中圧・低圧タービンへ |
| 低圧タービン(LP) | 再熱蒸気でさらに仕事をとる | 排気は復水器へ |
| 復水器 | 排気蒸気を冷却して水に戻す | 真空を保つことで圧力差を大きくする;冷却水が必要 |
| 給水ポンプ | 復水を高圧側に送り返す | 循環ループの完結;消費動力は小さい |
| 空気予熱器 | 排ガスで燃焼用空気を予熱 | 節炭器と同様の排熱回収 |
⚖️ 熱サイクルの比較表¶
| サイクル | 構成 | 熱効率の向上ポイント | 出題ポイント |
|---|---|---|---|
| ランキンサイクル | ボイラー→タービン→復水器→給水ポンプ(基本) | 基本形。改善なし | 基準として把握 |
| 再熱サイクル | 高圧タービン後に再熱器で再加熱→低圧タービン | 蒸気温度を再度上げることで湿分を減らし、タービン効率を向上 | 「再熱器」「湿分防止」「2段タービン」 |
| 再生サイクル | 途中タービンから蒸気を抽出して給水を予熱(給水加熱器) | ボイラー入口水温を高め、ボイラーへの供給熱量を削減 | 「抽気」「給水加熱器」「熱量節約」 |
| 再熱再生サイクル | 再熱+再生の組み合わせ | 両方の効果を得る。現代の大型火力発電はほぼこれ | 「実際の大型発電所」「最も高効率な汽力」 |
| コンバインドサイクル | ガスタービン排熱で蒸気タービンも動かす(GTCC) | ガスタービン(高温域)+蒸気タービン(低温域)で広い温度範囲を活用 | 熱効率55〜60%超、起動時間が短い |
熱効率の大小順(目安):コンバインド > 再熱再生 > 再生 ≒ 再熱 > ランキン
⚖️ 発電方式の比較表¶
| 発電方式 | 熱効率 | 起動時間 | 燃料 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 汽力発電(蒸気タービン) | 35〜42% | 長い(数時間〜) | 石炭・重油・LNG | ベース負荷 |
| ガスタービン発電 | 25〜35% | 非常に短い(数分) | LNG・軽油 | ピーク対応・緊急電源 |
| コンバインドサイクル(GTCC) | 55〜60%+ | 短〜中程度(30分〜) | LNG | ミドル〜ベース負荷 |
| ディーゼル発電 | 35〜45% | 非常に短い(数秒〜分) | 軽油・重油 | 非常用電源・離島 |
🔍 公式の意味マップ¶
なぜ η = 3600 / H_r なのか(物理的導出)¶
熱効率の定義から出発する。
1 kWh の電気を発電するのに消費した熱量を 熱消費率 H_r [kJ/kWh] と定義する。
1 kWh = 3,600 kJ なので、理想的(損失ゼロ)なら H_r = 3,600 kJ/kWh のはずだが、実際は損失があるため H_r > 3,600 となる。
つまり H_r が小さいほど少ない燃料で多くの電気を作れる = 高効率。
重要公式:発電端熱効率(必須)
- H_r:熱消費率 [kJ/kWh]。1 kWh 発電するのに消費した熱量
- 3600:1 kWh = 3,600 kJ の変換定数(SI単位系の基本)
- H_r が小さい ↔ η が大きい(逆数の関係)
重要公式:燃料消費量
- P_gen:発電電力 [kW]
- H_r:熱消費率 [kJ/kWh]
- H_l:燃料の低発熱量 [kJ/kg]
導出:総入熱 Q = P × H_r [kJ/h]、燃料消費量 B = Q / H_l [kg/h]
重要公式:送電端効率(発電端との違いに注意)
- L_aux:所内率 = 所内消費電力 / 発電電力
- 所内率の典型値:汽力発電 3〜7%、ガスタービン 1〜3%
- 送電端効率は発電端効率より必ず低い
レイヤーB:数値関係の整理¶
| 熱消費率 H_r [kJ/kWh] | 熱効率 η [%] |
|---|---|
| 10,000 | 36.0% |
| 9,000 | 40.0% |
| 8,000 | 45.0% |
| 7,200 | 50.0% |
| 6,000 | 60.0% |
H_r が小さいほど高効率(少ない熱で多くの電気を作る)。逆数の関係であることを意識する。
🛤️ 解法パターン¶
パターン①: 熱効率から発電電力量を求める¶
見分け方:燃料消費量・発熱量・熱効率が与えられ、発電量または発電電力を問われる
手順: 1. 総入熱 Q_in = 燃料消費量 × 低発熱量 [kJ] 2. 発電端出力 P = Q_in × η / 3600 [kW](時間単位に注意) 3. または E = Q_in × η / 3600 [kWh](電力量として求める場合)
例題:LNG 1,000 kg/h、低発熱量 50,000 kJ/kg、η=0.50 → Q_in = 1,000 × 50,000 = 50,000,000 kJ/h = 13,889 kW(÷3600) → P = 13,889 × 0.50 = 6,944 kW ≒ 6.9 MW
パターン②: 燃料消費量を求める¶
見分け方:発電電力(量)と熱効率が与えられ、燃料消費量を問われる
手順: 1. 熱消費率から総入熱を求める:Q_in = P × H_r [kJ/h](または E × H_r) 2. 燃料消費量 B = Q_in / H_l [kg/h]
例題:発電出力 100 MW、η=0.40、石炭の低発熱量 25,000 kJ/kg → H_r = 3,600 / 0.40 = 9,000 kJ/kWh → Q_in = 100,000 × 9,000 = 900,000,000 kJ/h → B = 900,000,000 / 25,000 = 36,000 kg/h = 36 t/h
パターン③: 送電端効率を求める¶
見分け方:所内消費電力(または所内率)が与えられ、送電端効率を問われる
手順: 1. 送電端電力 = 発電電力 - 所内消費電力 2. η_send = 送電端電力 / 総入熱 × 3600 3. または η_send = η_gen × (1 - 所内率)
例題:発電端効率 40%、所内率 5% → η_send = 0.40 × (1 - 0.05) = 0.40 × 0.95 = 38%
パターン④: 速度調定率(並列運転の負荷分担)¶
見分け方:速度調定率(%)の異なる複数の発電機が並列運転し、周波数変化時の各機の出力変化を問われる(R05下 問2型)
重要公式:速度調定率
- \(n_1, P_1\):変化前の回転速度・出力、\(n_2, P_2\):変化後の回転速度・出力
- \(n_n, P_n\):定格回転速度・定格出力
- 回転速度は系統周波数に比例するので、\(n\) を \(f\) に読み替えてよい
- 意味:出力を定格の100%変化させたとき、速度(周波数)が何%変化するかを表す
- 調定率が小さい機ほど、同じ周波数変化に対して出力変化が大きい(敏感に負荷を引き受ける)
手順: 1. 周波数変化率を求める:\(\Delta f / f_n\) 2. 各発電機の出力変化を求める:\(\Delta P_i = \dfrac{\Delta f / f_n}{R_i} \times P_{ni}\)(周波数低下なら出力増) 3. 必要なら合計して系統の負荷変化と照合する
例題:50 Hz系統でA機(定格200 MW、調定率5%)とB機(定格150 MW、調定率2.5%)が並列運転中、負荷増加により周波数が49.8 Hzに低下した。各機の出力増分は?
→ 周波数変化率 = 0.2 / 50 = 0.004(0.4%) → ΔP_A = 0.004 / 0.05 × 200 = 16 MW → ΔP_B = 0.004 / 0.025 × 150 = 24 MW(調定率が小さいBの方が大きく分担) → 系統全体の負荷増 = 16 + 24 = 40 MW
落とし穴
- 「調定率が大きい=よく働く」は逆。調定率が小さい機ほど出力変化が大きい
- 周波数が低下したら出力は増加(ガバナが開く)。符号の向きを取り違えない
- 各機の出力上限(定格)に達したら、それ以上は分担できない点に注意
🕳️ 勘違いTOP3¶
1. 発電端効率 vs 送電端効率の違い¶
よくある誤り:「発電端と送電端は同じ」「どちらも同じ公式で計算できる」
正しくは: - 発電端:発電機出力 / 入熱(所内消費を含む) - 送電端:(発電機出力 - 所内消費) / 入熱(電力会社が売る電力ベース)
送電端の方が 必ず低い。問題文に「所内消費電力」や「所内率」が出てきたら送電端を問われていると判断する。
2. 熱消費率と熱効率の逆数関係¶
よくある誤り:「熱消費率が大きいほど高効率」「H_r = η × 3600」
正しくは: - η = 3600 / H_r(η は H_r の逆数に比例) - H_r が小さいほど高効率(少ない熱で同じ電力を作れる)
3. コンバインドサイクルが高効率な理由を正確に説明できない¶
本質(カルノー効率の観点から): - カルノー効率 η = 1 - T_cold/T_hot が示す通り、高温源と低温源の温度差が大きいほど効率は高い - ガスタービン単独:高温(1300℃+)から中温(600℃+)の熱を使う(捨てる排熱温度が高い) - コンバインド:捨てていた中温排熱(600℃)を蒸気タービンがさらに回収し、低温(50℃以下)まで使いきる - 結果として実質的な T_hot〜T_cold の温度差を最大化しており、熱力学的な効率上限を高める
引っかけパターン:再熱サイクルと再生サイクルの混同
「給水加熱器を用いて給水を加熱するのは再熱サイクル」→ 誤。給水を予熱するのは再生サイクル(抽気蒸気を使う)。再熱サイクルは高圧タービン出口の蒸気を再加熱するもの。名前が似ているため混同しやすい。
引っかけパターン:過熱器と再熱器の区別
「タービン通過後の蒸気を加熱するのが過熱器」→ 誤。過熱器(スーパーヒーター)はボイラー内で飽和蒸気を過熱蒸気に変える装置。タービン通過後の蒸気を再加熱するのは再熱器(リヒーター)。
引っかけパターン:送電端効率 vs 発電端効率の大小
「送電端効率は発電端効率より高い」→ 誤。所内消費電力(ポンプ・補機類)の分だけ送電端効率は必ず低くなる。η_send = η_gen × (1 - 所内率) で必ず1未満の係数が掛かる。
引っかけパターン:ガスタービンの起動性
「ガスタービン発電は起動時間が長く緊急電源に不向き」→ 誤。ガスタービンは数分で起動可能で、ピーク・緊急電源に最適。起動時間が長いのは汽力発電(蒸気を昇温・昇圧するため数時間必要)。
📝 正誤判定の急所¶
| 文 | 正誤 | 解説 |
|---|---|---|
| 節炭器は燃焼ガスの熱で給水を予熱する | 正 | エコノマイザー。排ガスの熱エネルギーを回収する |
| 再熱サイクルは給水加熱器で給水を予熱する | 誤 | 給水加熱器は「再生サイクル」。再熱は高圧タービン後の蒸気を再加熱する |
| 熱消費率が大きいほど熱効率は高い | 誤 | 逆数の関係:η = 3600/H_r。H_r 小さい → η 大きい |
| コンバインドサイクルの熱効率は汽力発電より高い | 正 | 排熱回収により55〜60%以上を達成(汽力は35〜42%) |
| 送電端効率は発電端効率より高い | 誤 | 所内消費電力分だけ送電端効率の方が低い |
| 復水器は蒸気を水に戻し圧力差を確保する役割がある | 正 | 真空を保つことでタービン前後の圧力差を最大化する |
| ガスタービン発電は起動時間が長く緊急電源に不向きである | 誤 | ガスタービンは起動が速い(数分)。緊急・ピーク用途に適する |
| 過熱器はタービン通過後の蒸気を再加熱する | 誤 | 過熱器はボイラー内で飽和蒸気を過熱蒸気にする。再加熱は「再熱器」 |
📊 出題実績¶
📚 横断一覧: 分野別一覧(該当分野) / 年度別一覧
| 年度 | 問 | 出題内容 | 問題タイプ | 難易度 |
|---|---|---|---|---|
| R07下 | 問3 | 汽力発電所で使用される保護装置 | 論説 | ★★★☆☆ |
| R07下 | 問15 | 重油専焼火力発電所の熱効率と二酸化炭素発生量 | 計算 | ★★★★☆ |
| R07上 | 問2 | タービン効率と使用蒸気量の関係 | 計算 | ★★★☆☆ |
| R07上 | 問3 | 水と蒸気及び燃焼ガスの通過する順序 | 論説 | ★★★★☆ |
| R06下 | 問2 | 汽力発電における熱効率向上対策 | 論説 | ★★★★☆ |
| R06下 | 問3 | 衝動タービンと反動タービンの比較 | 穴埋 | ★★★★★ |
| R06下 | 問15 | 重油消費量と二酸化炭素排出量 | 計算 | ★★★☆☆ |
| R06上 | 問3 | コンバインドサイクル発電と汽力発電の比較 | 論説 | ★★☆☆☆ |
| R05下 | 問2 | 速度調定率の異なる発電機の出力変化 | 計算 | ★★★☆☆ |
| R05下 | 問3 | 復水器の特徴 | 穴埋 | ★★★☆☆ |
| R05下 | 問15 | 水力発電所の発電電力量と汽力発電所の重油使用量(水力・火力複合) | 計算 | ★★★★☆ |
| R05上 | 問2 | 熱回収コンバインドサイクル発電の特徴 | 論説 | ★★★☆☆ |
| R05上 | 問3 | 火力発電所の煙風道系統 | 穴埋 | ★★★☆☆ |
| R05上 | 問15 | 石炭火力発電所の熱効率と二酸化炭素排出量 | 計算 | ★★★☆☆ |
| R04下 | 問3 | コンバインドサイクル発電方式の特徴 | 論説 | ★★★☆☆ |
| R04下 | 問15 | 汽力発電所の復水器で失われる熱量 | 計算 | ★★★☆☆ |
| R04上 | 問2 | 火力発電所のタービン発電機 | 穴埋 | ★★☆☆☆ |
| R04上 | 問3 | 汽力発電設備のタービン効率 | 計算 | ★★★☆☆ |
| R03 | 問3 | 汽力発電におけるボイラ設備 | 論説 | ★★★☆☆ |
| R03 | 問4 | 電気集じん装置のメカニズム | 穴埋 | ★★★★★ |
| R03 | 問15 | 火力発電所の送電端電力量及び発電端効率 | 計算 | ★★★☆☆ |
| R02 | 問2 | 汽力発電所の復水器の機能及び特徴、損失 | 穴埋 | ★★☆☆☆ |
| R02 | 問3 | 汽力発電所の再熱・再生サイクル | 論説 | ★★★☆☆ |
| R01 | 問3 | 汽力発電所における熱効率向上方法 | 論説 | ★★☆☆☆ |
| R01 | 問5 | コンバインドサイクル発電 | 論説 | ★☆☆☆☆ |
| R01 | 問15 | 汽力発電所のタービン出力及び海水温度 | 計算 | ★★★☆☆ |
詳細解説: 電験王 火力カテゴリ