制御弁¶
30秒まとめ¶
制御弁の選定は Cv 値計算・流量特性・フェールポジションの3点が核心。化学プラントでは「プロセスが異常になったとき弁はどうあるべきか」を先に決め、FC/FO/FL を選定する。
Cv 値計算¶
Cv 値(流量係数)は弁の口径・開度に応じた流量能力を表す。
液体の Cv 計算式¶
Q = Cv × √(ΔP / SG)
Q:流量(US gal/min)、ΔP:弁前後差圧(psi)、SG:比重(水=1.0)
SI 単位系での換算
Q[m³/h] = Kv × √(ΔP[bar] / SG)
Kv = 0.865 × Cv (Cv ↔ Kv 換算)
計算例¶
条件:水(SG=1.0)、流量 10 m³/h、弁前後差圧 0.3 bar のとき
Kv = 10 / √(0.3 / 1.0) = 10 / 0.548 = 18.2
Cv = 18.2 / 0.865 = 21.0
→ Cv ≥ 21 の弁を選定。ただし通常は設計流量で 70〜80 % 開度になるよう余裕を持たせる(全開で使い切らない)。
推奨開度の幅は資料によって違います
本ページは設計点で 70〜80 %、計算ツール集 は通常運転点で 50〜80 % を挙げています。どちらも実務目安で、規格が定めた値ではありません。 重要なのは「全開近くで使い切らない(増締め代がなくなる)」「低開度に張り付かせない(制御性が落ち、最小流量時に 10 % を切るならサイジング見直し)」という両側の縛りで、その間のどこを狙うかは流量変動幅と特性の選び方によります。
流量特性¶
弁の開度(リフト)と流量の関係。
scripts/gen_figure_paths.py valve が定義式から生成。| 特性 | 開度-流量関係 | 使い分け |
|---|---|---|
| リニア | 開度に比例して流量増加 | ΔP が一定(ポンプ制御等) |
| イコールパーセンテージ | 開度 1% 増加でその時点の流量の一定割合増加 | ΔP が変化する系(最も一般的) |
| クイックオープン | 少し開くだけで最大流量 | ON/OFF 用途・緊急遮断 |
イコールパーセンテージが多い理由
プロセス配管系ではポンプ吐出圧と配管圧損の関係で弁前後 ΔP が開度によって変化する。 この変化をイコールパーセンテージ特性が補正し、実際の流量とリフトの関係をリニアに近づけてくれる。
フェールポジション(FC/FO/FL)¶
電源・空気圧が失われたとき(フェール時)弁がどの位置に行くかを定義する。
| 記号 | 意味 | 選定基準 |
|---|---|---|
| FC(Fail Close) | フェール時に閉 | 緊急遮断が必要な箇所(冷却水遮断→過熱防止) |
| FO(Fail Open) | フェール時に開 | 緊急開放が必要な箇所(冷却水開放→冷却継続) |
| FL(Fail Last) | フェール時に最後の開度を保持 | どちらでもない箇所(精度より安定優先) |
化学プラントでの選定原則
FC と FO は「失った場合にプロセスが安全側に向かうか」で決める。 例: - 反応器への原料供給弁 → FC(反応暴走防止) - 反応器への冷却水弁 → FO(冷却を確保) - 製品移送弁 → FC(製品漏洩防止)
ポジショナ¶
調節計の出力信号(4-20mA)を受け、弁開度を正確にフィードバック制御する機器。
| 種類 | 入力信号 | 特徴 |
|---|---|---|
| 空気式(I/P変換器付き) | 4-20mA → 空気圧 | シンプル・防爆対応容易 |
| 電気式(スマートポジショナ) | 4-20mA(HART通信) | 診断機能・部分ストロークテスト可 |
| デジタル式(フィールドバス) | FF/Profibus | DCSとの統合管理 |
スマートポジショナの活用
HART 通信対応のスマートポジショナは以下の診断情報が取得できる: - 実際の弁開度フィードバック値 - 弁ストローク回数(予知保全に活用) - 部分ストロークテスト(PST):弁を少し動かして動作確認(運転中に実施可能)
キャビテーション¶
液体が弁の絞り部で圧力が下がり気泡が発生し、下流で圧力が回復する際に気泡が崩壊する現象。弁体・弁座を著しく損傷させる。
キャビテーション指数 σ¶
σ = (P2 - Pv) / (P1 - P2)
P1:弁入口圧(kPa abs)、P2:弁出口圧(kPa abs)、Pv:液体の飽和蒸気圧(kPa abs)
σ ≥ 1.5〜2.0 程度が安全目安。σ が低いほどキャビテーション発生リスクが高い。
σ の定義は資料によって違う。判定値とセットでしか使えません
キャビテーション指数には複数の定義があり、代表的なものだけでも次の2系統があります。
- 本ページの式: σ = (P2 − Pv) / (P1 − P2)
- 分子を入口圧でとる式: σ = (P1 − Pv) / (P1 − P2)
後者は前者よりちょうど 1 だけ大きくなります((P1−Pv) = (P2−Pv) + (P1−P2) のため)。つまり同じ運転条件でも定義が違えば σ の数値が変わるので、他資料の σ の値や判定基準を本ページの式に持ち込まないでください。 メーカーの選定資料・サイジングソフトがどの定義を使っているかを必ず確認し、式と判定値は必ず対で扱ってください。上の「1.5〜2.0」は本ページの式に対する目安です(実務目安であり規格値ではありません。下記「根拠」参照)。
キャビテーション防止策¶
| 対策 | 方法 |
|---|---|
| 多段絞り弁 | 差圧を複数段に分割して各段の圧力降下を小さくする |
| 背圧弁の追加 | 下流に背圧弁を設置して P2 を高く保つ |
| 弁出口の拡径 | 出口側の流速を下げて圧力回復量を減らす |
選定チェックリスト¶
- [ ] 設計流量・最大流量・最小流量を確認
- [ ] 流体の種類・温度・圧力・比重・蒸気圧を確認
- [ ] Cv 値計算(70〜80% 開度で設計流量が通ること)
- [ ] フェールポジション(FC/FO/FL)をプロセス安全から決定
- [ ] 流量特性(リニア/イコールパーセンテージ)を選択
- [ ] キャビテーション指数 σ を確認(液体の場合)
- [ ] 防爆区域の場合 Ex 認証を確認
- [ ] ポジショナ選定(スマート型の診断機能が必要か確認)
根拠¶
Cv / Kv の換算は本ページが正典です¶
Kv = 0.865 × Cv(したがって Cv = 1.156 × Kv)。この係数は単位の定義から導けます。
Cv : Q[US gal/min]、ΔP[psi] で定義
Kv : Q[m³/h]、ΔP[bar] で定義
1 US gal/min = 0.2271247 m³/h、1 psi = 0.0689476 bar
Kv/Cv = 0.2271247 / √0.0689476 = 0.86498
2026-08-01 に単位換算から再計算して確認し、2026-09-19 に SI の定義値から再導出しました。
米液量ガロンと psi はいずれも定義値なので、係数は測定値ではなく計算で一意に決まります。
1 US gal = 231 in³(定義)、1 in = 2.54 cm(定義)
→ 3.785 411 784 L → 1 US gal/min = 0.227 124 707 m³/h
1 lbf = 0.453 592 37 kg × 9.806 65 m/s²(いずれも定義)= 4.448 221 615 N
1 psi = 1 lbf / (2.54 cm)² = 6 894.757 293 Pa = 0.068 947 573 bar
Kv/Cv = 0.227 124 707 / √0.068 947 573 = 0.864 978
Cv/Kv = 1.156 099
計算ツール集 の換算係数も本ページに合わせています。
計算例(水・10 m³/h・0.3 bar)も 2026-09-19 に再計算し一致を確認: Kv = 10/√0.3 = 18.2574(表示は 18.2)、Cv = 18.2/0.865 = 21.04(表示は 21.0)。
σ の定義が複数あることが最大の注意点¶
キャビテーション指数は資料によって定義が異なり、同じ運転条件でも数値が変わります。本ページの式(分子が P2 − Pv)と、分子を入口圧でとる式(P1 − Pv)ではちょうど 1 だけ差が出ます。
式と判定値は必ず対で扱ってください。 他資料の σ の値・判定基準を本ページの式に持ち込むと、キャビテーション有無の判断を誤ります。
差が「ちょうど 1」になるのは代数的に確かめられます(2026-09-19 に確認)。
```text
(P1 − Pv)/ΔP − (P2 − Pv)/ΔP = (P1 − P2)/ΔP = ΔP/ΔP = 1
```
したがって**他資料の判定値をそのまま使いたい場合は、式を揃えるか判定値に ±1 する**必要があります。
原本未照合(honest-hold)¶
- 弁のサイジング規格(IEC 60534 系・ISA の関連 RP)は有償で、本 Wiki では原本を照合していません。 したがって次は扱いません。
- 規格が定めるサイジング式そのもの(配管レデューサ係数 Fp、圧力回復係数 FL、チョーク流れの判定、液体臨界圧力比係数 FF など)
- σ の規格上の定義と、初生キャビテーション/損傷限界の規格判定値
- 本ページの式は基本形(レデューサ・チョーク流れ・粘度補正を含まない)です。実際のサイジングはメーカーの選定資料・サイジングソフトによってください
- レンジアビリティ R = 50 は図示のための代表例で、規格で一意に決まる値ではありません(図の caption に既記)
実務慣行(規格の裏付けなし)¶
- 設計点で 70〜80 % 開度(計算ツール集 は通常運転点で 50〜80 %)。両者とも実務目安で、規格が定めた値ではありません。本質は「全開で使い切らない」「低開度に張り付かせない」の両側の縛りです
- σ ≥ 1.5〜2.0(本ページの式に対する目安)
- 流量特性の使い分け(ΔP 一定ならリニア、変化するならイコールパーセンテージ)は設計の定石です
正典参照¶
| 項目 | 正典 |
|---|---|
| 4-20 mA・HART・故障判定(NAMUR NE 43) | 計装基礎 |
| フェールポジションの空気源喪失時の挙動・FL の限界 | 計装空気 |
| 防爆エリアの Zone 区分・防爆構造の適用 | 防爆 |
| 弁トラブルの切り分け・シート漏れクラス | 制御弁トラブル |
| 部分ストロークテスト(PST)と SIL の関係 | 機能安全(SIS/SIL) |
個々の弁のフェール方向は設計で決まる値です。本ページの選定原則は考え方であり、実物は P&ID・弁データシートで確認してください。
照合日: 2026-09-19(Cv/Kv 換算係数を SI の定義値から再導出、計算例と σ の 2 定義の差を再計算。有償規格〔IEC 60534 系・ISA〕の原本未照合は変わらず)。
関連ページ¶
- 計装基礎 — ポジショナの4-20mA入力・HART通信基礎
- PID制御 — 制御系統での弁の位置づけ・応答特性
- DCS タグ設定 — 弁開度信号のスケーリング・出力設定
- 計装配線 — I/P変換器・スマートポジショナの配線・HART実装
- 計装空気 — 弁を動かす空気の系統構成・品質要件・空気源喪失時のフェール挙動
- 計装カテゴリ — より広い計装知識へ
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