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サーモグラフィ診断(赤外線熱画像)

30秒まとめ

サーモグラフィ(Thermography)は、通電したまま非接触で接続部の過熱や相間の偏流を面的に捉えられる、ほぼ唯一の診断手段です。停電して行う増し締め点検の「事前スクリーニング」として組み合わせると効果が高くなります。 判定は絶対温度ではなく、同相間・同種箇所どうしの温度差(Δt)による相対評価が基本です。 最大の落とし穴は放射率(Emissivity)の設定と負荷率です。光沢のある金属面は実温度より低く見え、負荷が軽いと異常そのものが出ません。測定は高負荷時に行うのが鉄則です。


なぜ熱画像か

電気接続部の劣化(ボルトの緩み、酸化被膜、素線切れ、圧着不良)は、接触抵抗の増加として現れ、通電時に発熱します。この発熱は通電中でなければ生じないため、停電して触診や増し締めをするだけでは「今まさに過熱している箇所」を捉えられません。

サーモグラフィは次の3点で他の手段にない価値を持ちます。

  • 通電中(活線)のまま測定できる … 設備を止めずにスクリーニングできる
  • 非接触で測定できる … 充電部に触れずに離れた位置から面的に温度分布を取得できる
  • 面的に見える … 点ではなく分布で捉えるため、3 相のうちどの相が過熱しているか、偏流が起きていないかが一目で分かる

増し締め点検(停電必要)との補完関係

手段 通電状態 捉えられるもの 弱点
サーモグラフィ 活線(通電中) 発熱している接続部・偏流(症状) 緩みの「程度」までは分からない
増し締め・接触抵抗測定 停電 緩みの有無・締付トルク・抵抗値(原因) 通電時の発熱は再現できない

両者は「症状を見つける(サーモ)→ 原因を確定し処置する(停電点検)」という役割分担です。サーモグラフィで過熱箇所を絞り込んでから停電点検で重点的に処置すると、停電時間を短縮できます。

活線測定は単独で行わない

高圧盤の扉を開けて充電部を露出させて撮影する場合は感電・アーク(フラッシュオーバー)のリスクがあります。電気主任技術者の監督下で、適切な離隔距離を保ち、原則 2 名以上で実施してください。低圧盤でも、扉を開けて充電部が露出した状態での測定は感電リスクのある充電部近接の作業として、同様の管理(離隔・監視・保護具)のもとで行ってください(充電電路に対する法令上の措置の正典は 停電作業・PTW)。


測定対象と頻度の目安

熱画像で異常が出やすいのは「電流が流れて発熱しうる接続点・接触点」です。代表的な対象を挙げます。

測定対象 着目点 頻度の目安
受配電盤の母線接続部・ボルト締結部 接触抵抗増加による局所過熱 年 1 回(高負荷期に)
端子台・端子接続部 緩み・圧着不良・素線切れ 年 1 回
遮断器(VCB・MCCB)の主回路接触部 接点劣化・締結部過熱 年 1 回
CT(変流器)回路・二次側端子 二次開放による異常発熱 年 1 回(重点)
電動機(モーター)本体・端子箱 軸受過熱・巻線過熱・端子過熱 年 1 〜 2 回
ケーブル端末(端末処理部・圧着端子) 接続不良・絶縁劣化に伴う発熱 年 1 回
変圧器(外箱・ブッシング・接続部) ブッシング接続部過熱・冷却異常 年 1 回

どこを重点的にやるかの考え方

すべてを同じ密度で見る必要はありません。次の優先度で考えると効率的です。

  • 重点(毎回しっかり見る)… 停止すると影響が大きい設備(主要ライン駆動モーター、受電用変圧器)、過去に発熱履歴がある箇所、電流値が大きい母線・幹線の接続部
  • 標準(年 1 回ルーチン)… 一般の端子台・分岐回路・MCC 各ユニット
  • 異常時に追加 … 異音・異臭・電流値の上昇など他の点検で兆候が出た箇所

CT 回路の二次開放は重大事故につながる

CT は二次側を開放したまま通電すると高電圧が発生し、機器焼損・感電の危険があります。サーモグラフィで CT 回路の異常発熱を見つけても、二次回路の処置は必ず計画停電または短絡処置を行ったうえで実施してください。


測定の落とし穴

サーモグラフィは「撮れば温度が分かる」道具ではありません。誤った条件で撮ると、異常を見逃したり、正常を異常と誤判定したりします。代表的な落とし穴を押さえてください。

負荷率が低いと異常は出ない(最重要)

接続部の発熱は流れる電流のほぼ 2 乗に比例します(発熱 ∝ I²R)。負荷が軽い時間帯に撮ると、本来危険な緩みでも温度差が小さく、正常に見えてしまいます。 測定はできるだけ高負荷の時間帯(定格に近い運転状態)に行うのが鉄則です。負荷率が低いときに撮らざるを得ない場合は、そのこと自体を記録し「軽負荷のため要再測定」と明記してください。

放射率(Emissivity)の設定

放射率とは、物体表面が赤外線を放射する効率を表す係数(0 〜 1)です。サーモグラフィは表面から放射される赤外線量から温度を逆算するため、放射率の設定が実温度に直結します。

  • 光沢のある金属面(磨かれた銅・アルミ、メッキ面)は放射率が低く、実温度より低く表示されます。緩んで過熱していても「大丈夫」に見える危険があります。
  • 黒く塗装された面、酸化した面、絶縁被覆の表面は放射率が高く、比較的正確に測れます。

光沢金属には放射率を上げる工夫を

重要な裸銅母線などは、測定ポイントにあらかじめ放射率の高い艶消し塗装やマーキングシール、ビニルテープを貼っておくと安定して測れます。または、相間で同じ材質・同じ仕上げの箇所どうしを比べる「相対評価」に徹することで、放射率の不確かさを実質的に打ち消せます。

反射の影響

放射率が低い面は、周囲の高温物体や自分自身(測定者)、照明、太陽を「鏡」のように映し込みます。これを実際の過熱と取り違えると誤判定になります。

  • 撮影アングルを少し変えても高温点が同じ位置に動かなければ「本物の発熱」、アングルを変えると動く・消えるなら「反射」の可能性が高い、と切り分けます。

赤外線が透過しない障害物

赤外線は可視光と異なり、一般的なガラスやアクリル、樹脂カバーを透過しません。

  • 盤の扉を閉めたまま、またはアクリル窓・点検窓のカバー越しでは、内部の接続部温度は測れません(カバー自身の表面温度を見ているだけになります)。
  • 内部を測るには扉やカバーを開ける必要があり、これは活線作業に該当します。常設の赤外線専用窓(IR ウィンドウ)が付いている盤では、その窓越しに測定できます。

屋外・環境の影響

  • 日射 … 直射日光が当たった面は、電流による発熱がなくても高温になります。日陰の時間帯に撮るか、日射の影響を記録します。
  • 風 … 風が当たると放熱が進み、過熱箇所の温度が下がって異常が薄まります。屋外や換気の強い場所では風速も意識します。
  • 距離・画角 … 遠すぎると 1 画素に複数の物体が混ざり、ピンポイントの過熱を平均化して見落とします(測定対象が画面内で十分な大きさに写る距離まで近づく)。

判定の考え方

絶対温度ではなく温度差(Δt)で見る

接続部の温度は負荷率・外気温・放射率に大きく左右されるため、「何 ℃ だから異常」という絶対値判定は当てになりません。実務では次の相対評価が基本です。

  • 同相間比較 … 3 相(R・S・T)の同じ箇所どうしを比べ、1 相だけ温度が高ければ偏流・接触不良を疑う
  • 同種箇所比較 … 同じ種類・同じ負荷条件の端子どうしを比べる
  • 基準温度差(Δt) … 過熱箇所の温度と、近傍の正常箇所(または周囲温度)との差を評価する

温度差による判定の一般的な目安

具体的な Δt の判定帯は規格や各社基準により幅があり、確立した単一の数値はありません。以下は一般的な実務の目安であり、自社・自設備の基準があればそちらを優先してください。境界値の取り扱いは保守的に(厳しめに)運用することを推奨します。

同種箇所との温度差 Δt(一般的な目安) 状態の見方 対応の目安
おおむね 5 ℃ 未満 正常範囲とみなせることが多い 通常の周期で経過観察
おおむね 5 〜 15 ℃ 軽度の差。注意して観察 記録し、次回点検で再確認・必要に応じ短縮
おおむね 15 〜 30 ℃ 明確な過熱の疑い 早期に停電点検(増し締め・接触抵抗測定)を計画
おおむね 30 ℃ 超 重度の過熱 早急に負荷低減・停電点検を検討

数値はあくまで出発点、変化(トレンド)を重視する

上表の Δt はスクリーニングの出発点です。絶対値の小ささに安心せず、同一箇所で前回より温度差が拡大している場合は、たとえ目安の下のほうでも要注意として扱ってください。値そのものより「広がっているか」が劣化進行のサインです。

明らかな高温・発煙・異臭は数値判定を待たない

触れられないほどの高温、変色、焦げ臭、煙が確認された場合は、Δt の数値判定を待たず、電気主任技術者へ連絡し負荷低減・停止など安全側の処置を優先してください。


記録とトレンド管理

サーモグラフィは 1 回撮って終わりではなく、同じ箇所を継続的に撮って変化を追うことで真価を発揮します。これは予兆保全の状態基準保全(CBM)そのものです。

定点撮影のルール(条件をそろえる)

熱画像は条件に左右されるため、比較できるように撮影条件を固定します。

そろえる条件 具体例 そろえる理由
負荷状態 できるだけ高負荷の同じ運転条件 発熱は電流に依存するため
撮影距離 毎回同じ距離・同じ画角 平均化・分解能を一定にするため
アングル 毎回同じ向き・角度 反射条件と見える面をそろえるため
放射率設定 同じ材質・同じ設定値 表示温度を比較可能にするため
撮影タイミング 季節・時間帯・日射条件を記録 外気温・日射の影響を切り分けるため

台帳化のしかた

可視画像と熱画像をペアで残し、最低限つぎの項目を記録します。

設備名 | 撮影日 | 撮影者 | 測定箇所 | 負荷率(%) | 外気温(℃) | 放射率 |
最高温度(℃) | 同種箇所温度(℃) | 温度差Δt(℃) | 判定 | 前回Δt | 所見・写真番号
  • 熱画像だけでなく可視画像(通常写真)も併せて残すと、どの端子のことか後から特定できます。
  • 「前回 Δt」の欄を設け、変化(拡大/横ばい/改善)が一目で分かるようにします。

predictive-maintenance.md の CBM 運用との接続

サーモグラフィのデータは、絶縁抵抗・負荷電流・振動と並ぶ CBM の入力の 1 つです。データ活用・予兆保全ページで解説している運用に、温度差トレンドを組み込んでください。

  • 月次・年次のルーチンに撮影日を固定で組み込む(点検計画への組み込み)
  • 温度差 Δt が前回より拡大した箇所を抽出し、停電点検(増し締め・接触抵抗測定)の優先順位づけに使う
  • Excel 台帳に蓄積し、複数年のトレンドから「そろそろ処置」の判断につなげる

まずは重点箇所から定点撮影を始める

全箇所を完璧に台帳化しようとすると始められません。停止影響の大きい設備と過去に発熱履歴のある箇所だけでも、年 1 回・同条件で撮り続けることから始めると、数年でトレンドが見え予兆が掴めるようになります。


根拠

本ページが正典の範囲

  • 赤外線熱画像診断の測定条件(負荷率・放射率・反射・透過・環境)、Δt による相対評価の考え方、定点撮影・台帳化の運用。

一次計算で検算済み

  • 接続部発熱が電流のほぼ 2 乗に比例する(P = I²R)のジュール発熱式は物理法則そのもの。負荷率が低いと温度差が出ないという本文の帰結もここから直接導かれる(2026-08-06 検算)。
  • 「放射率の低い光沢金属面は実温度より低く表示される」は放射測温の原理(放射輝度=放射率×黒体輝度)どおりで、向きの取り違えなし。反射(映り込み)が低放射率面で強く出る点も同原理の裏面で整合。

実務慣行(規格・法令の裏付けなし)

  • 温度差 Δt の判定帯(5/15/30 ℃)は実務のスクリーニング目安であり、法令・JIS の定めではない。本文でも「規格や各社基準により幅があり、確立した単一の数値はない」と明示済み。海外の点検基準(NETA MTS 等)に類似の Δt 帯があるとされるが原本未照合のため本ページでは規格名を判定根拠として引用しない。
  • 測定頻度の目安(年 1 回等)・重点箇所の選び方は実務慣行。
  • 「一般的なガラス・アクリル・樹脂カバーは長波長赤外線を透過しない」は赤外測温の一般知識(材質・波長帯に依存)。IR ウィンドウは専用材質を使うため透過する。

是正の記録(2026-08-06)

  • 「低圧盤でも扉を開けた状態での測定は活線作業に該当します」という法令区分の断定を撤回し、「充電部近接の作業として同様の管理を行う」に是正。労安則上の「活線作業/活線近接作業」の区分は充電電路への接触・接近の態様で決まり、非接触測定が常にどちらに該当するかを条文照合なしに断定していたため(区分の正典は停電作業・PTW ページ)。
  • 上記以外の記述(CT 二次開放の危険・放射率・反射・透過・Δt 相対評価・負荷率の影響)は照合したがずれ無し。

限界の明示

  • Δt 判定帯は出発点にすぎない。自社基準・トレンド(前回比)を優先し、境界値は保守的に運用する(本文の warning のとおり)。
  • 放射率・反射・距離・風・日射で表示温度は変わる。表示された絶対温度をそのまま「実温度」と扱わないこと。

正典参照

  • 振動・温度の判定値と CBM 運用 → データ活用・予兆保全(温度判定値はすべて実務慣行である旨も同ページが正典)
  • 過熱箇所の停電点検・LOTO → 停電作業・PTW(労安則第339条の一次照合は outage-work 側に記載)
  • 絶縁状態の確認 → 絶縁管理

照合日: 2026-08-06(発熱式・放射測温原理の向きを検算し、活線作業の法令区分断定 1 件を是正。Δt 判定帯は実務慣行であることを明示)。

関連ページ

  • データ活用・予兆保全 — 温度差トレンドを CBM の入力として運用する方法(絶縁抵抗・電流・振動との統合管理)
  • 定期点検 — 活線点検での接続部温度確認・年次点検への組み込み(増し締め点検との連携)
  • 絶縁管理 — 過熱で疑われた箇所の絶縁状態を確認する測定手順・判定基準
  • 測定器の使い方 — 放射温度計・クランプメーターなど併用する測定器の使い方
  • 停電作業 — サーモで絞り込んだ箇所を停電点検(増し締め・接触抵抗測定)するときの停電手順・LOTO
  • 保全体系 — TBM/CBM の考え方と設備重要度ランクの判断基準
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