機能安全(SIS/SIL)¶
30秒まとめ¶
安全計装システム(SIS: Safety Instrumented System)は、通常運転を担う DCS/BPCS(基本プロセス制御系)とは物理的に独立させ、危険事象を検知して安全側へ停止させる「最後の砦」です。SIS が担う1つ1つの安全機能を SIF(Safety Instrumented Function:安全計装機能)と呼び、センサ→ロジックソルバ→最終要素の1ループで構成されます。各 SIF に要求される信頼性の度合いが SIL(Safety Integrity Level:安全度水準)1〜4で、値が大きいほど「要求されたときに失敗する確率(PFDavg)」を1桁ずつ小さくする必要があります。SIL は機器を買えば手に入るものではなく、投票構成・プルーフテスト周期・診断・独立性を設計と運用の両輪で守り続けて初めて維持されます。バイパスの放置やプルーフテストの未実施は、SIL を静かに崩す典型です。
SIS と BPCS/DCS はなぜ分けるのか¶
化学プラントの計装は、大きく2つの層に分かれます。
| 層 | 略称 | 役割 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 基本プロセス制御系 | BPCS(Basic Process Control System)/ DCS | 温度・圧力・流量を目標値に保つ常時制御 | 常に動いている(能動的) |
| 安全計装システム | SIS | 危険域に入ったら検知して安全側へ停止(ESD・インターロック) | 普段は待機、要求時だけ作動(受動的) |
IEC 61511(プロセス産業の機能安全規格。上位に汎用規格 IEC 61508)は、この2層を独立させることを要求しています。理由は明快です。
- 共通原因故障(Common Cause Failure)の排除: BPCS が暴走・故障して危険を引き起こしたとき、その BPCS自身に安全機能を持たせていたら、道連れで安全機能も失われます。BPCS の異常こそが SIS を必要とする場面なので、同じ箱・同じセンサに同居させてはいけません
- 独立した層としての信頼性: SIS は「BPCS が守れなかったときに独立して働く」ことに価値があります。LOPA(後述)でも SIS は BPCS とは別の独立防護層(IPL: Independent Protection Layer)として数えます
BPCS と SIS のセンサ共用は原則禁止
「同じ圧力を測るのだから伝送器は1本でよいのでは」という発想が最も危険です。BPCS の制御用トランスミッタが詰まり・ドリフトを起こすと、制御が乱れて危険に近づくと同時に、その同じ信号を使う安全機能も正しく検知できません。SIS のセンサ・ロジックソルバ・最終要素は BPCS とは別系統にするのが原則です。既存の DCS の分離原則と合わせて確認してください。
SIF — 安全計装機能という「1ループ」の考え方¶
SIS は複数の SIF(Safety Instrumented Function:安全計装機能)の集合体です。SIF は「ある特定の危険事象を防ぐための、独立した1つの機能」で、次の3要素で構成された1ループです。
flowchart LR
A[センサ\nSensor\n圧力・温度・レベル等を検知] --> B[ロジックソルバ\nLogic Solver\n安全PLC/ソリッドステート]
B --> C[最終要素\nFinal Element\n緊急遮断弁ESDV・電磁弁・遮断器]
A -. 別系統 .-> D[BPCS/DCS\n通常制御]
| 要素 | 英語 | 代表機器 | 補足 |
|---|---|---|---|
| センサ | Sensor | 圧力伝送器・温度伝送器・レベルスイッチ | SIF ごとに専用。BPCS と共用しない |
| ロジックソルバ | Logic Solver | 安全 PLC(Safety PLC)・ソリッドステートロジック | IEC 61508 認証品を使うのが一般的 |
| 最終要素 | Final Element | 緊急遮断弁(ESDV: Emergency Shutdown Valve)・電磁弁(SOV)・電動機遮断 | 実際にプロセスを止める部分。故障寄与が最も大きいことが多い |
SIF ごとに SIL を割り当てる
SIL は「工場全体」や「SIS 全体」に付く番号ではなく、SIF 1つ1つに割り当てるものです。例えば「反応器高圧トリップ SIF は SIL 2」「フレアノックアウトドラム高レベル SIF は SIL 1」のように、危険事象の重大さごとに個別決定します。SIF ごとにセンサから最終要素までの全経路で PFDavg を積み上げて検証します。
SIF 全体の PFDavg は、センサ・ロジックソルバ・最終要素それぞれの寄与の足し算に近い形になります。経験的に最終要素(弁)の寄与が支配的になりやすく、後述の部分ストロークテスト(PST)が効いてくる理由です。
SIL — 安全度水準の定義¶
SIL(Safety Integrity Level:安全度水準)は SIF に要求される信頼性を1〜4の離散バンドで表します。低頻度作動要求モード(Low Demand Mode:安全機能への要求が年1回程度以下。プロセス産業の大半はこちら)では、PFDavg(Average Probability of Failure on Demand:要求時平均作動失敗確率) の範囲で定義されます。
SIL 定義表(低頻度作動要求モード, IEC 61508-1 表2=JIS C 0508-1 表2)¶
| SIL | PFDavg(要求時作動失敗確率) | RRF(リスク低減係数 = 1 / PFDavg) | 桁のイメージ |
|---|---|---|---|
| SIL 4 | 10⁻⁵ ≤ PFDavg < 10⁻⁴ | 10,000 〜 100,000 | 10万回に1回以下しか失敗しない |
| SIL 3 | 10⁻⁴ ≤ PFDavg < 10⁻³ | 1,000 〜 10,000 | 1万回に1回 |
| SIL 2 | 10⁻³ ≤ PFDavg < 10⁻² | 100 〜 1,000 | 1,000回に1回 |
| SIL 1 | 10⁻² ≤ PFDavg < 10⁻¹ | 10 〜 100 | 100回に1回 |
- 1 SIL上がるごとに PFDavg は1桁小さく(信頼性が10倍厳しく)なります
- RRF(Risk Reduction Factor:リスク低減係数)= 1 / PFDavg。SIL 2 なら「危険事象の発生頻度を100〜1,000分の1に下げる能力」を意味します
- 化学プラントの SIF は SIL 1〜SIL 2 が大半、重大な事象で SIL 3。SIL 4 は単一の SIF ではほぼ非現実的(達成コストが跳ね上がる)で、現実には防護層を増やして各層を SIL 2〜3 に分担させます
PFDavg は「桁」で管理する
PFDavg は小数の細かい値の議論に見えますが、実務ではどの桁のバンドに入るかが本質です。プルーフテスト周期を延ばす、テストカバレッジが甘い、といった運用のほころびは PFDavg を悪化させ、気づかぬうちに SIL 2 が SIL 1 相当に落ちていることがあります。設計時の SIL 検証計算書(SIL verification)と、運用実績が一致しているかを定期的に照合してください。
高頻度作動要求モード(参考)¶
作動要求が頻繁(年1回超)または連続の場合は、PFDavg ではなく PFH(Probability of dangerous Failure per Hour:単位時間あたり危険側故障確率, 1/h) で SIL を定義します(SIL 1: 10⁻⁶ ≤ PFH < 10⁻⁵ など)。プロセスプラントのトリップ系の多くは低頻度モードですが、常時安全機能に依存する構成では高頻度モードで評価する点に注意してください。
SIL の決定手法(LOPA/リスクグラフ)¶
「この SIF に SIL いくつを要求するか」は感覚では決めません。代表的な2手法があります。
LOPA(Layer of Protection Analysis:防護層解析)¶
半定量的な手法で、化学プラントで最も広く使われます。
- HAZOP 等で抽出した危険シナリオごとに、起因事象の頻度(例: 制御ループ故障 0.1回/年)を置く
- その事象を止める独立防護層(IPL) を並べ、各層の PFD を掛けていく(BPCS 制御・機械式安全弁・オペレータ介入など)
- 残ったリスクが許容基準(企業の risk criteria)に届かない不足分を、SIS に要求する RRF として算出
- 必要 RRF から逆算して SIL を決定(RRF 100〜1,000 → SIL 2 など)
IPL として数える条件
LOPA で防護層に数えられるのは、独立・有効・監査可能な層だけです。BPCS の制御ループと、その異常を検知する SIS を「別の層」と数えるには、両者が独立(センサ・ロジック別系統)であることが前提になります。ここでも独立の原則が効いてきます。
リスクグラフ(Risk Graph)¶
結果の重大度・暴露頻度・回避可能性・事象発生確率の4パラメータを分岐でたどり、SIL を導く定性的手法です。LOPA より簡便ですが、パラメータ選択の主観が入りやすく、キャリブレーション(自社基準への較正)が重要です。
投票構成(Voting Architecture)¶
SIF の信頼性と運転継続性は、センサや最終要素を何重にして、いくつ一致したら動作させるかで作り込みます。MooN(M out of N:N個中M個の一致で作動)表記を使います。
投票構成の比較表¶
| 構成 | 読み | 作動条件 | 安全性(危険側故障への強さ) | 運転継続性(スプリアストリップ耐性) | 代表用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1oo1 | 1 out of 1 | 1個が検知で作動 | 低(単一故障で機能喪失。診断で補う) | 低(1個の誤検知で即トリップ) | 低 SIL・単純ループ |
| 1oo2 | 1 out of 2 | 2個中1個の検知で作動 | 高(片方が危険側故障でも他方が作動) | 低(片方の誤検知でトリップ=スプリアス増) | 安全最優先の遮断 |
| 2oo2 | 2 out of 2 | 2個とも検知で作動 | 低(片方が危険側故障だと作動しない) | 高(片方の誤検知ではトリップしない) | 誤トリップを嫌う系(安全性は要注意) |
| 2oo3 | 2 out of 3 | 3個中2個の検知で作動 | 高 | 高 | 安全性と運転継続性を両立。多用される |
トレードオフの本質¶
- 安全側(危険側故障を見逃さない)を厚くする → 冗長数を増やし、少数一致で作動させる(1oo2, 1oo3)。ただし1個の誤検知でも止まるためスプリアストリップ(Spurious Trip:不要作動)が増える
- 運転継続性(不要停止を避ける)を厚くする → 多数一致を要求する(2oo2, 2oo3)。ただし要求時に作動しないリスク(危険側)とのバランスが要る
- 2oo3 が「良いとこ取り」として好まれる理由: 1個が故障・誤検知しても、残り2個の多数決で正しく動く。危険側にもスプリアス側にも1個の故障を許容できる(HFT=1 相当)
スプリアストリップは安全問題でもある
「余計に止まるだけで安全側だから良い」とは限りません。頻繁な緊急停止は起動停止のたびに別の危険(フレア負荷・熱応力・手動介入ミス)を生み、現場がトリップ設定を嫌ってバイパスを常用する動機になります。スプリアス低減(2oo3化)は、SIS を「信頼して使い続けられる」ようにするための安全投資でもあります。
プルーフテスト(Proof Test)¶
SIS は普段作動しないため、故障が起きても「静かに壊れている」ことがあります。この危険側未検出故障(DU: Dangerous Undetected failure) を摘み出すのがプルーフテストです。
なぜ必須か — PFDavg との関係¶
- 故障のうち診断で自動検出できるもの(DD: Dangerous Detected)は警報が出ますが、診断でカバーできない DU は次に実際に作動要求が来るまで発覚しない
- DU が潜んでいる時間が長いほど PFDavg は悪化します。低頻度モードの PFDavg は近似的に PFDavg ≈ (λDU × T) / 2(λDU: 危険側未検出故障率, T: プルーフテスト周期)で表され、テスト周期 T に比例します
- つまり 周期を2倍に延ばすと PFDavg も約2倍悪化します。これがプルーフテスト周期を安易に延ばしてはいけない定量的な理由です
| 判断 | PFDavg への影響 |
|---|---|
| プルーフテスト周期 T を短縮 | PFDavg 改善(DU の潜伏時間が短くなる) |
| 周期 T を延長(テスト先送り) | PFDavg 悪化(SIL が1段落ちることもある) |
| テスト未実施の放置 | 検証計算の前提が崩れ、実質 SIL を保証できない |
テストカバレッジ(Proof Test Coverage)¶
1回のプルーフテストで DU の何割を摘出できるかがテストカバレッジです。100%と思い込みがちですが、実際は不完全なことが多いです。
- 例: 遮断弁を全ストローク動かせば弁体固着は検出できますが、テスト用にバイパスで疑似信号を入れる方式だと、実際のセンサ〜ロジック〜弁の全経路を通していないことがあり、カバレッジが下がります
- カバレッジが低いと、テストしても取りこぼす DU が残り、PFDavg は計算通りには下がりません。SIL 検証計算書に用いたカバレッジ前提と、実際のテスト方法が一致しているか確認してください
部分ストロークテスト(PST: Partial Stroke Test)¶
緊急遮断弁(ESDV)は全閉テストがプロセス停止を伴うため、頻繁にはできません。そこで弁を10〜20%程度だけ動かして固着していないかを確認するのが PST です。
- メリット: 運転を止めずに弁の固着(最終要素の主要な DU)を部分的に摘出でき、フルプルーフテストの間隔を延ばしても PFDavg を抑えられる
- 限界: 全閉・シート漏れは PST では確認できないため、PST はフルプルーフテストを置き換えない。周期の長いフルテストと組み合わせて使う
- 最終要素の故障寄与が支配的なことが多いため、PST は SIF 全体の PFDavg 改善に効きやすい
プルーフテスト記録は SIL の「証拠」
プルーフテストは「やったつもり」では意味がありません。いつ・誰が・どの方法で・合否はどうだったかの実施記録(証明試験記録)が、その SIF が今も要求 SIL を満たしている唯一の証拠です。記録のない SIS は、監査でも事故調査でも「機能保証なし」と判断されます。テスト周期の管理と記録の保存は SIS 運用の根幹です。
SIL 検証計算例 — PFDavg を手で当たってみる¶
SIL 検証は最終的には認証済みの故障率データと専用ツールで行いますが、桁がどう決まるかを手計算で押さえておくと、テスト周期や冗長化の効き方を現場で検算できます。ここでは前述の SIL 定義表(低頻度作動要求モード)と整合する形で、簡易近似式による計算例を示します。
前提となる近似式(低頻度作動要求モード)¶
単一チャネル(1oo1)の PFDavg は、危険側未検出故障率 λDU(Dangerous Undetected failure rate, /h)とプルーフテスト間隔 TI(h)を使って次で近似できます(IEC 61508-6(JIS C 0508-6)附属書B の式から修復時間(MRT/MTTR)の項を省いた簡易形)。診断で検出できる危険側故障(λDD)はオンラインで警報が出て早期に修復されるため、待機系の PFDavg にはほとんど効かず、主に λDU が支配します。
1oo1: PFDavg ≒ λDU × TI / 2
- TI/2 は「DU が発生してから次のプルーフテストで摘出されるまでの平均潜伏時間」を表します
- PFDavg が TI に比例するため、テスト間隔を延ばすほど直線的に悪化します(前節「なぜ必須か」と同じ関係)
数値計算例(1oo1・センサ1本)¶
| 項目 | 記号 | 値 |
|---|---|---|
| 危険側未検出故障率 | λDU | 1×10⁻⁶ /h |
| プルーフテスト間隔 | TI | 1年 = 8760 h |
PFDavg ≒ λDU × TI / 2
= 1×10⁻⁶ × 8760 / 2
≒ 4.4×10⁻³
この 4.4×10⁻³ は SIL 定義表の 10⁻³ ≤ PFDavg < 10⁻²=SIL 2 帯に入ります。RRF(=1/PFDavg)に直すと約 230 で、SIL 2 の RRF 帯(100〜1,000)とも整合します。
- 感度: テスト間隔を半年(4380 h)に短縮すると PFDavg ≒ 1×10⁻⁶ × 4380 / 2 ≒ 2.2×10⁻³ となり、SIL 2 帯の中で約半分に改善します。テスト頻度が PFDavg に直接効くことが数字で見えます
投票構成による改善(1oo2)と共通原因故障¶
同じセンサを2本にして 1oo2(2本中1本の検知で作動)にすると、危険側に失敗するのは両方が同時に DU 状態になったときだけになるため、独立故障だけを見れば PFDavg は大きく下がります。ただし実際には、両チャネルが同一原因で同時に壊れる共通原因故障(CCF: Common Cause Failure) が下限を支配します。CCF は β 係数(全 DU のうち共通原因で失われる割合)でモデル化します(IEC 61508-6 の βファクタ法。「典型 1〜10 %」は二次資料で広く使われる目安であり、規格が定める固定値ではありません)。
1oo2: PFDavg ≒ (λDU × TI)² / 3 + β × λDU × TI / 2
└─ 独立故障項 ─┘ └─── CCF項 ───┘
上と同じ λDU=1×10⁻⁶ /h、TI=8760 h、β=5 % で計算すると次のようになります。
| 項 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 独立故障項 (λDU×TI)²/3 | (8.76×10⁻³)² / 3 | ≒ 2.6×10⁻⁵ |
| CCF項 β×λDU×TI/2 | 0.05 × 8.76×10⁻³ / 2 | ≒ 2.2×10⁻⁴ |
| 合計 PFDavg | 2.6×10⁻⁵ + 2.2×10⁻⁴ | ≒ 2.4×10⁻⁴ |
- 1oo1 の 4.4×10⁻³(SIL 2 帯)から 2.4×10⁻⁴(10⁻⁴ ≤ PFDavg < 10⁻³=SIL 3 帯) へ、約1桁改善しました
- ただし合計を支配しているのは独立故障項ではなく CCF項です。β を下げられなければ、いくら冗長化しても PFDavg はこの CCF 項より下がりません。CCF 低減(別メーカー・別測定原理・物理分離・ダイバーシティ)が冗長化の効果を決める、というのが 1oo2 の要点です
- 2oo3 は危険側にもスプリアス側にも1個の故障を許容でき(前述の投票構成表・HFT=1 相当)、安全性と運転継続性を両立させる構成として実務で多用されます
SIF トータルの積み上げ¶
SIF の PFDavg は、センサ・ロジックソルバ・最終要素それぞれの PFDavg の足し算で評価します(SIF 節と同じ考え方)。目標 SIL の PFDavg 帯に合計が収まるかを照合します。
| 要素 | 構成・前提(例) | PFDavg(例) |
|---|---|---|
| センサ | 1oo2・上記計算 | 2.4×10⁻⁴ |
| ロジックソルバ | 安全 PLC(IEC 61508 認証品) | 1.0×10⁻⁴ |
| 最終要素(ESDV) | 1oo1・PST 併用でフルテスト間隔を延伸 | 2.0×10⁻³ |
| SIF 合計 | 単純加算 | ≒ 2.3×10⁻³ → SIL 2 帯 |
- 合計 2.3×10⁻³ は SIL 2 帯(10⁻³ ≤ PFDavg < 10⁻²)に収まり、この SIF は SIL 2 を満たすと判断できます
- 内訳を見ると 最終要素(弁)の寄与が約 9 割で支配的です。弁は可動部の固着という DU を抱えやすく、故障率が大きくなりがちなためで、SIF 節の「最終要素が支配的」と一致します。PFDavg を下げたいときはまず弁に手を打つ(PST 併用でカバレッジを上げる・冗長化する・フルテスト周期を見直す)のが効果的です
- 目標 SIL に届かなければ、テスト間隔 TI 短縮 → 冗長化(投票構成変更)→ PST 導入の順で対策を回し、再計算して帯に収まるかを確認する、という設計ループになります
この計算例は「桁を掴む」ための簡易版です
ここで使った近似式は、故障率一定・TI ≫ 修復時間・カバレッジ 100 % などの理想化を前提にした概算です。正式な SIL 検証は、認証済みの故障率データ(SIL データシート/exida 等の第三者認証データ)と、CCF・診断カバレッジ・部分テストを織り込んだ専用ツールで実施します。本例はあくまで「設計者が桁感を持ち、ツールの出力を検算し、テスト周期や冗長化の効き方を現場で説明する」ための道具立てであり、この手計算だけで SIL を主張するものではありません。次節のアーキテクチャ制約(SFF・HFT)も併せて満たす必要があります。
SFF・HFT とアーキテクチャ制約¶
PFDavg の計算(ランダムハードウェア故障)だけでは SIL は認められません。IEC 61508 は、構成の冗長性の下限を別途要求します。これがアーキテクチャ制約(Architectural Constraints)です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| SFF(Safe Failure Fraction:安全側故障割合) | 全故障のうち「安全側故障+診断で検出できる危険側故障」の割合。診断(自己診断)が効くほど高くなる |
| HFT(Hardware Fault Tolerance:ハードウェアフォールトトレランス) | 何個の故障まで機能を失わずに耐えられるか。HFT=1 なら1個故障しても機能維持(=2重化相当) |
考え方はシンプルです。SFF が低い(診断の乏しい)機器ほど、より高い HFT(多重化)を要求される。逆に SFF が高い認証機器なら、同じ SIL をより少ない冗長数で達成できます。
- 例: 診断のない汎用伝送器(SFF 60%未満)で高い SIL を狙うと HFT を上げざるを得ず、1oo2 や 2oo3 の多重化が必要になる
- 認証済みで診断の効く機器(SFF 90%以上)なら、より少ない冗長で同 SIL に届く
PFDavg 合格でもアーキテクチャ制約で不合格になる
「計算上の PFDavg は SIL 2 を満たすから1oo1でよい」は通りません。SFF が低ければ、アーキテクチャ制約側が1oo1を認めず、多重化を要求します。PFDavg(量)とアーキテクチャ制約(構成の下限)の両方をクリアして初めてその SIL を主張できます。
MOC・バイパス管理¶
SIS は「動いていること」だけでなく「勝手に無効化されていないこと」の管理が命です。
変更管理(MOC)¶
SIF のロジック・整定値・投票構成・プルーフテスト周期の変更は、すべて MOC(Management of Change:変更管理) を経ます。SIL 検証計算の前提(故障率・冗長・テスト周期)を変える変更は、SIL 再計算まで含めて審査対象です。DCS の MOC ルールと同じ枠組みで、SIS はさらに厳格に扱います。
バイパス(オーバーライド)管理¶
プルーフテストや校正、起動時などに SIF を一時的に無効化(バイパス/オーバーライド)することがあります。ここが最も事故に繋がりやすい運用点です。
SIS バイパスは2名確認・時間管理・見える化
バイパスは安全機能を意図的に殺す行為です。以下を徹底してください(既存 DCS のバイパス運用と整合)。
- 2名確認: バイパス投入・解除は単独作業にしない。誰が・いつ・なぜを記録
- 時間管理: 「何時までに解除」を明確にし、期限管理する。ダラダラ延長しない
- 見える化: バイパス中の SIF を DCS/SIS 画面・現場札で常時表示。当直交代の申し送り必須
- 代替措置: バイパス中は安全機能が無いに等しいため、監視強化・運転制限などの補償措置を並行する
- 解除確認: 作業完了後、確実に解除されたことを2名で確認。解除忘れが最大の落とし穴
現場の落とし穴¶
| 落とし穴 | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| BPCS と SIS のセンサ共用 | 共通原因故障で制御と安全が同時喪失。SIS が独立防護層として数えられない | センサ・ロジック・最終要素を別系統に。P&ID で系統を確認 |
| バイパス解除忘れ・放置 | 安全機能が無効のまま運転継続。事故時に作動しない | 時間管理・2名解除確認・画面での見える化 |
| プルーフテスト先送り・未実施 | PFDavg が周期比例で悪化し、実質 SIL が1段落ちる | テスト周期を MOC 対象として厳守。周期変更は SIL 再計算 |
| テストカバレッジの過信 | 疑似信号テストで全経路を通さず、DU を取りこぼす | 検証計算のカバレッジ前提と実テスト方法を照合。最終要素は PST 併用 |
| 整定値の無断変更 | SIL 検証の前提が崩れ、危険域で作動しない/頻繁にスプリアス | 整定値変更は必ず MOC。変更前後を記録 |
| 証明試験記録の欠落 | 機能を保証する証拠がない。監査・事故調査で「保証なし」 | いつ・誰が・どの方法で・合否を記録し保存 |
| スプリアストリップ多発の放置 | 現場が SIS を嫌いバイパス常用に走る | 2oo3化など構成見直しで不要作動を減らす |
| 防爆エリアでの機器選定漏れ | SIS 機器も防爆区分・本安要件を満たす必要がある | 防爆 のエリア区分・保護構造と両立させる |
SIL は「買う」ものではなく「維持する」もの
SIL 3 認証センサを並べても、テストしない・バイパスを放置する・整定値を勝手に変えるなら、実際の SIL は保証できません。SIL は設計時の検証計算と、プルーフテスト・バイパス管理・MOC という運用で維持し続けて初めて成立します。
根拠と適用上の注意¶
-
SIL の定義帯(PFDavg・PFH): 2026-09-19 に無償の一次資料で確定しました。 従来は JIS C 0508-1:2012 表2・表3(有償・原本未照合)だけを挙げていましたが、同じ帯が厚生労働省告示にあり、全数一致を確認しました。
出典: 機能安全による機械等に係る安全確保に関する技術上の指針(平成28年9月26日 厚生労働省告示第353号) 別紙(2026-09-19 に原典 PDF で照合)。同指針は IEC 61508(JIS C 0508 系)の安全度水準を国内の技術上の指針として採り入れたものです。
要求安全度水準 低頻度作動要求モード(PFDavg) 高頻度の作業要求モード又は連続モード(PFH・1/h) 4 10⁻⁵ 以上 10⁻⁴ 未満 10⁻⁹ 以上 10⁻⁸ 未満 3 10⁻⁴ 以上 10⁻³ 未満 10⁻⁸ 以上 10⁻⁷ 未満 2 10⁻³ 以上 10⁻² 未満 10⁻⁷ 以上 10⁻⁶ 未満 1 10⁻² 以上 10⁻¹ 未満 10⁻⁶ 以上 10⁻⁵ 未満 モードの境界も同告示が定義しています。 低頻度作動要求モードは「要求安全機能の作動が求められる頻度が 1 年当たり 1 回以下」、高頻度は「1 年当たり 1 回を超える」、連続モードは「通常運転の一環として作動が連続的に求められる」場合です(注1〜注3)。どちらの表を使うかはこの頻度で決まります。JIS C 0508-1 は IEC 61508-1:2010 の対応規格。原本未照合・二次資料のみ(2026-07-30 の照合は非公式な全文転載サイトによるもので、出典として扱いません。表番号・帯域の数値は JSA/IEC 発行の原本で確認してから引用してください)。 - PFDavg の近似式: JIS C 0508-6:2019 附属書B(1oo1 の式は PFDG=(λDD+λDU)×tCE、tCE=T1/2+MRT)は原本未照合・二次資料のみ(附属書番号・式は原本で未確認。以前の確認は非公式な全文転載サイトによるもので、出典として扱いません)。本文の「λDU×TI/2」「(λDU×TI)²/3+β×λDU×TI/2」は修復時間・診断修復を無視した簡易形であり、規格の式そのものではない(桁の把握用。本文の警告どおり、この式だけで SIL を主張しないこと)。 - BPCS と SIS の独立・LOPA・アーキテクチャ制約(SFF/HFT): IEC 61511(プロセス産業向け。JIS C 0511 系)・IEC 61508-2 に基づく一般的な設計原則だが、該当する条文・表の番号までは原本未照合のため本ページでは条番号を挙げない。SFF の閾値(60 %/90 % など)も二次資料で広く使われる区分の例示である。適用時は規格原本と認証機関・SIL 検証の担当者に確認すること。 - β=1〜10 %・λDU・故障率・PFDavg の各数値例: すべて教育目的の例示であり、規格の規定値でも実機の代表値でもない。実際の SIL 検証は認証済み故障率データと専用ツールで行う。 - 限界の明示: 本ページは SIS/SIL の考え方の整理であり、この記載のみを根拠に SIL の判定・プルーフテスト周期の変更・投票構成の変更を行ってはならない。それらは SIL 検証計算と MOC の対象である。
関連ページ¶
- DCS — BPCS と SIS の分離原則・MOC・ファンクションブロック(SIS ロジックの基礎)
- アラーム管理 — LOPA でオペレータ介入を独立防護層として成立させる土台(SIS の1つ手前の層)
- 防爆 — SIS 機器も満たすべき防爆エリア区分・保護構造
- 制御弁 — 最終要素となる緊急遮断弁(ESDV)・フェールポジション
- 計装空気 — 空気式最終要素の駆動源とフェール挙動
- 保護リレー試験 — 定期作動試験の考え方(プルーフテストと通じる)
- 計装カテゴリ — 計装分野の記事一覧
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