PID制御¶
30秒まとめ¶
P は現在の偏差に反応、I は過去の積み上がりを解消、D は変化の速度を先読みする。ハンチング(振動)の原因はほとんどゲイン過大か積分時間が短すぎる。チューニングは「P だけで落ち着かせてから I を入れる」が基本手順。
P / I / D の直感的な説明¶
| パラメータ | 見ているもの | 役割 | 強くすると |
|---|---|---|---|
| P(比例ゲイン) | 現在の偏差 | 偏差に比例した操作量を出す | 応答が速くなる。過大でハンチング |
| I(積分時間 Ti) | 過去の偏差の積み上がり | 定常偏差(オフセット)を消す | 遅くすると残留偏差が残る。短すぎるとハンチング |
| D(微分時間 Td) | 偏差の変化速度 | 変化の先読みでオーバーシュートを抑制 | ノイズを増幅する。一般的には0または小さめに設定 |
PID 演算式(位置型)
MV = Kp × [ e + (1/Ti) × ∫e dt + Td × de/dt ]
MV:操作量、Kp:比例ゲイン、e:偏差(SP-PV)、Ti:積分時間、Td:微分時間
ステップ応答法によるチューニング¶
最も現場で使いやすい方法。
手順¶
1. 制御ループを手動(Manual)にする
2. MV(操作量)を現在値から 10 % ステップ変化させる
3. PV(測定値)のステップ応答を記録する
4. 応答曲線から以下を読み取る:
- むだ時間(L):MV 変化後 PV が反応し始めるまでの時間
- 時定数(T):むだ時間 L が終わった時点を起点に、応答が最終変化量の 63.2 % に達するまでの時間
※ MV ステップ時点から測ると T が L だけ過大になり、Kp が過大 → ハンチングの原因
- プロセスゲイン(Kp_process):PV 変化量 / MV 変化量
※ PV・MV とも「レンジに対する %」でそろえて無次元にする
5. Ziegler-Nichols 式でパラメータ計算
Ziegler-Nichols ステップ応答法(参考値)¶
| 制御 | Kp | Ti | Td |
|---|---|---|---|
| P 制御 | T / (Kp_process × L) | — | — |
| PI 制御 | 0.9 × T / (Kp_process × L) | 3.3 × L | — |
| PID 制御 | 1.2 × T / (Kp_process × L) | 2.0 × L | 0.5 × L |
Ziegler-Nichols はあくまで出発点
計算値をそのまま使うと応答が振動的になることが多い。Kp を計算値の 50〜70% から始めて調整するのが実務的。
ハンチング(振動)の3大原因と対処¶
| 原因 | 症状 | 対処 |
|---|---|---|
| 比例ゲイン過大 | 規則的な振動。振幅が一定 | Kp を 50〜70% に下げる |
| 積分時間が短すぎる | 振幅が徐々に拡大する | Ti を 2〜3 倍に延ばす |
| むだ時間が大きい | 低周波の遅い振動 | Kp を下げ Ti を延ばす。内側ループで外乱を速く潰せるならカスケード制御、それでも足りなければむだ時間補償(スミス補償)を検討 |
むだ時間が支配的なループに D を足しても効かない
D 動作が見ているのは「PV の変化速度」です。むだ時間 L の間はプロセスの変化がそもそも PV に現れないため、 D はすでに遅れて届いた変化に反応するだけで、先読みにはなりません。ノイズ増幅の副作用だけが残ります。 フィルタ追加も同様で、位相遅れを増やすぶん振動を悪化させる側に働きます。 L / T(むだ時間と時定数の比)が大きいループでは、まずゲインを下げて安定させるのが定石です。
カスケード制御¶
1つの制御ループの出力が別のループの目標値(SP)になる構成。
flowchart LR
A[SP(温度)] --> B[Primary Controller\n温度調節計]
B -- Secondary SP --> C[Secondary Controller\n流量調節計]
C --> D[制御弁]
D --> E[プロセス]
E -- 流量 PV --> C
E -- 温度 PV --> B
適用場面:外乱の多い流量・圧力を内側ループで素早く抑制し、外側ループの温度や液位を安定させたい場合。
ワインドアップ(積分飽和)と防止策¶
制御弁が全開/全閉(飽和状態)になっているとき、I(積分)項は偏差を積み続けて大きな値になる(ワインドアップ)。弁が飽和から解放された瞬間に、蓄積した積分分が一気に放出されてオーバーシュートが発生する。
防止策¶
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| アンチリセットワインドアップ(ARW) | 出力が飽和したとき積分計算を停止する |
| 出力リミット(HL/LL) | MV の上下限をリミットして積分の蓄積を制限する |
| バックキャルキュレーション | 弁の実開度をフィードバックして積分値を補正する |
主要メーカーのパラメータ表記対応表¶
| パラメータ | 横河 CENTUM | ABB 800xA | Emerson DeltaV |
|---|---|---|---|
| 比例帯(PB)または比例ゲイン | PB(%) | GAIN | GAIN |
| 積分時間 | TI | RESET | RESET |
| 微分時間 | TD | RATE | RATE |
積分時間・微分時間の単位は必ず取扱説明書で確認する
積分時間・微分時間の既定単位は機種・ブロック・エンジニアリング設定によって秒と分のどちらもあり、 RESET については「時間(min)」ではなく「1分あたりの繰返し回数(repeats/min)」を採る機器もあります。 取り違えると整定値が 60 倍・1/60 倍ずれ、ハンチングや制御不能の直接原因になります。 上表はパラメータ名の対応のみを示すもので、単位は当該機器の取扱説明書で必ず確認してください(本Wikiでは未照合)。
比例ゲインと比例帯の関係
比例帯 PB(%)= 100 / Kp PB が小さいほどゲインが高い(応答が敏感)。 例:PB=50% → Kp=2.0
根拠¶
時定数 T の起点を明記しました(2026-08-02 是正)¶
かつて本ページは時定数 T を「応答が最終変化量の 63.2 % に達するまでの時間」とだけ書き、起点を示していませんでした。ステップ応答法が前提とする一次遅れ+むだ時間モデルは次の形です。
PV(t) = K × ΔMV × { 1 − exp( −(t − L) / T ) } (t ≧ L)
K : プロセスゲイン、L : むだ時間、T : 時定数
指数の中が (t − L) であることから、応答が 63.2 % に達するのは t = L + T です。したがって T は むだ時間 L が終わった時点から測ります。MV をステップさせた時点から測ると、読み取り値は L + T になり T が L だけ過大になります。
過大量は倍率 (T + L) / T = 1 + L/T で効くため、むだ時間の比率が大きいループほど誤差が大きくなります。
| L / T | Kp の過大率 |
|---|---|
| 0.1 | +10 % |
| 0.2 | +20 % |
| 0.5 | +50 % |
| 1.0 | +100 % |
数値検算(K = 1、L = 2、T = 10。2026-08-02 に計算して確認)。63.2 % 到達は t = 12 で、これを T と誤読した場合:
| 制御 | 正しい Kp | T = 12 と誤読 | 差 |
|---|---|---|---|
| P | 5.00 | 6.00 | +20 % |
| PI | 4.50 | 5.40 | +20 % |
| PID | 6.00 | 7.20 | +20 % |
Ti・Td は L だけで決まるため、この誤読の影響を受けません。過大になるのはゲインだけで、そのまま入れると振動側に振れます。
Ziegler-Nichols 式は再確認済み¶
上表の係数(P: T/(Kp_process・L)/PI: 0.9T/(Kp_process・L)・Ti = 3.3L/PID: 1.2T/(Kp_process・L)・Ti = 2L・Td = 0.5L)は、流通しているステップ応答法(反応曲線法)の値と一致することを 2026-08-02 に確認しました。比例帯 PB = 100/Kp、PB = 50 % → Kp = 2.0 も定義どおりです。
プロセスゲインは無次元にそろえる¶
Kp_process = PV 変化量 / MV 変化量 は、PV と MV をそれぞれのレンジに対する % で取って初めて無次元になります。PV を工業単位(℃・kPa 等)、MV を % で取ると Kp_process が「℃/%」のような単位を持ち、Z-N 式から出る Kp も「%/℃」になります。調節計側が無次元のゲイン(または比例帯 %)を期待している場合、レンジ倍だけずれた値を入れることになります。
実務慣行(規格の裏付けなし)¶
次はいずれも現場の目安であり、規格・法令が定めた値ではありません。
- MV のステップ幅 10 %。プロセスが動く範囲で、かつ製品品質に影響しない幅を選ぶという趣旨の値です
- 計算値の 50〜70 % から始める
- ハンチング対処の Kp を 50〜70 % に下げる/Ti を 2〜3 倍に延ばす
- カスケード制御の適用場面、ワインドアップ防止策の3区分
原本未照合(honest-hold)¶
- Ziegler-Nichols 法の原論文(Ziegler & Nichols, 1942)を本 Wiki では照合していません。 上表の係数は流通している値との一致を確認したにとどまり、原論文からの逐語引用ではありません。「計算値をそのまま使うと振動的になるのは 1/4 減衰比を設計目標にしているため」という説明が一般的ですが、原本未照合のため本 Wiki では断定しません
- 主要メーカーのパラメータ表記対応表は名称の対応のみです。単位(秒/分/repeats per min)は本文の danger 注記のとおり未照合で、取扱説明書での確認が必要です
- スミス補償・バックキャルキュレーション等の実装は機器のブロック仕様に依存します。本ページは考え方のみを扱います
限界の明示¶
- ステップ応答法が前提とするのは一次遅れ+むだ時間で近似できるプロセスです。積分性プロセス(液位・バッチ昇温など、MV を変えると PV が戻らず動き続けるもの)や逆応答を持つプロセスには、この手順をそのまま当てはめられません
- ステップ試験はプラントを乱します。 実施前に運転部門の了解と、外れたときの戻し方(Manual 復帰・MV 復元値)を決めてください
正典参照¶
| 項目 | 正典 |
|---|---|
| 4-20 mA・NAMUR NE 43 の信号レベル | 計装基礎 |
| 調節計側の設定項目・実装 | 調節計・記録計 |
| PID 出力を受ける弁の応答・シート漏れ等 | 制御弁 |
| DCS の PID ブロックと運用 | DCS |
| ハンチングの現場切り分け | 制御弁トラブル |
照合日: 2026-08-02。
関連ページ¶
🤖 この記事をChatGPTに渡す(プロンプト生成)
使い方: コピー → ChatGPT で貼り付け → 質問を追記して送信。